事件,事故のことを子どもからどう聴き取ればよいか?――子どもへの司法面接(4)

子どもが事件や事故の被害者や目撃者になることがある。しかし,子どもから適切に話を聞くことは,とても難しいようだ。そうした際の聞き取りの技法として注目されている司法面接について,第一人者の仲真紀子・北海道大学教授が解説します。最終回は専門家の連携,そして広く私たちに何ができるかを考えていきます。(編集部)

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Author_NakaMakiko仲真紀子(なか・まきこ):北海道大学大学院文学研究科教授。主著に『子どもの司法面接――考え方・進め方とトレーニング』(有斐閣,2016年,編著),『法と倫理の心理学――心理学の知識を裁判に活かす 目撃証言,記憶の回復,子どもの証言』(培風館,2011年),『こころが育つ環境をつくる――発達心理学からの提言』(新曜社,2014年,共編)など。

司法面接に関するサイナビ!の連載も最終回となりました。今回は司法面接をめぐる専門家の連携,そして広く私たちに何ができるかを考えてみたいと思います。

虐待行為の多重性

厚生労働省の「189(イチハヤク)」のウェブサイト(1)をご覧になったことはあるでしょうか。「こういう疑いがあったら通報・通告を」という主旨で,虐待の定義が書かれています。例えば,

・身体的虐待:殴る,蹴る,叩く,投げ落とす,激しく揺さぶる,やけどを負わせる,溺れさせる,首を絞める,縄などにより一室に拘束する,など

・性的虐待:子どもへの性的行為,性的行為を見せる,性器を触る又は触らせる,ポルノグラフィの被写体にする,など

こういった行為が疑われたならば,「189」に電話をかけます。そうすると,児童相談所が対応します。しかし,項目を見て「これは刑事事件にもなりうるよなあ」と思われた方も多いでしょう。実際,上のような行為は暴行,傷害,矯正わいせつなどにもなりうるものです。そうであれば,児童相談所や市町村の福祉事務所という福祉的アプローチだけでなく,警察・検察による司法的なアプローチも必要になってくるでしょう。

連携の難しさ

しかし,近年まで,福祉と司法の連携は必ずしもスムーズであったとはいえません。福祉的なアプローチの大きな目標は,家族を支援し,家族の機能を高めることにあります。ですから,子どもを殴ってしまった親がいれば,親を指導し,親が殴らないですむように支援を提供します。それでも暴力が止まないのであれば,やむなく子どもを分離し,施設に措置することになります。これに対し,司法アプローチは,まず被疑者に向かいます。父親がやったとなれば父親を,母親がやったとなれば母親を排除する方向で動くでしょう。しかし,家庭は父親,母親を失い,崩壊してしまうかもしれません。福祉と司法のアプローチはときに真逆に働くことがあり,そのためなかなか連携ができなかったということがあります。これは日本に限ったことではありません。第3回で書きました英国で起きたクリーブランド事件でも,福祉と司法の歩調がそろわず,親や子どもに負担がかかるという問題がありました。以降,英国では積極的に連携しようというワーキング・トゥギャザー(協働)・アプローチがとられるようになりました。

ワーキング・トゥギャザーを促す1つの要は,共に事実確認を行うことです。福祉支援で対応するか処罰を考えるか,家族統合を目指すか被疑者排除に向かうか等,対処法に違いはあったとしても,特定の日時・場所で,加害したとされる人と被害を受けたとされる人の間に何があったのか,という事実確認は重要です。子どもにできるだけ負担をかけることなく,より正確な情報をより多く引き出すことは,どのアプローチにとっても欠かすことができません。


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