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CBTによるシングル・セッション・セラピー入門

ウィンディ・ドライデン著/毛利伊吹訳

発行日: 2023年9月10日

体裁: 四六判並製272頁

ISBN: 978-4-908736-33-9

定価: 2600円+税

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電子書籍あり

内容紹介

1回のセラピーを最大限活かす

セラピーを継続させる道筋を担保しつつ,1回だけのセラピーで,有効な支援をどのように構築することができるのか。認知行動療法(CBT)の第一人者が丁寧に解説

目次

第Ⅰ部 理論

1章 CBTによるシングル・セッション・セラピー(SSI-CBT)―その内容と基本的前提

2章 SSI-CBTにおけるシングル・セッション・セラピーのマインドセット

3章 作業同盟―SSI-CBTにおける一般的な枠組み

4章 人はおもに,さまざまな認知行動的要因により問題を生み出して維持している

5章 クライエントは自分の問題に関連する困難な状況(現実であっても推測であっても)に対して,健全に対処できるように可能なかぎり援助されるべきである

6章 特定の状況で人はすみやかに自分の役に立つことができる

7章 SSI-CBTではクライエントの視点を優先することが重要である

8章 適用についての取り扱い

9章 SSI-CBTでは,問題,目標,解決に焦点を当てることを重視する

10章 クライエントの提示した問題について,ケースフォーミュレーションの原則に基づき十分なアセスメントを行う

11章 SSI-CBTでは,クライエントの問題の中心的メカニズムを特定して対処することを支援できる

12章 クライエントの最初の反応そのものよりも,最初の反応に対するその後の対応の方が重要なことが多い

13章 SSI-CBTではクライエントのさまざまな変数を利用することが重要である

14章 SSI-CBTにとって有用なクライエントの特性

15章 SSI-CBTに役立つセラピストの特徴

第Ⅱ部 実践

16章 SST-CBTにおける良い実践

17章 SSI-CBTプロセスの概観

18章 最初のコンタクト

19章 セッション前の準備

20章 セッション,1:上手に始める

21章 セッション,2:焦点を定める

22章 セッション,3:提示された問題を理解する

23章 セッション,4:目標の設定

24章 セッション,5:中心的メカニズムの特定

25章 セッション,6:中心的メカニズムを扱う

26章 セッション,7:インパクトを与える

27章 セッション,8:学んだことをセッション内とセッション外で用いるようにクライエントを励ます

28章 セッション,9:上手に終わる

29章 セッション終了後―振り返り,録音と逐語記録

30章 フォローアップと評価

著者

ウィンディ・ドライデン(Windy Dryden)

ロンドン大学ゴールドスミス校心理療法研究名誉教授。彼は論理情動行動療法の国際的権威であり,非常勤で臨床実践やコンサルテーションを行っている。45年以上にわたって心理療法に携わり,250冊以上の本の執筆や編集に関わってきた。

訳者

毛利伊吹(もうり・いぶき)

2002年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)
現在,上智大学総合人間科学部心理学科准教授。
主要著作・論文:『高齢者のマインドフルネス認知療法――うつ,緩和ケア,介護者のストレス低減など』(分担執筆,誠信書房,2018年),『女性のこころの臨床を学ぶ・語る――心理支援職のための「小夜会」連続講義』(分担執筆,金剛出版,2022年),『こころの支援に携わる人のためのソクラテス式質問法――認知行動療法の考え方・進め方を学ぶ』(監訳,金子書房,2022年)など。

イントロダクション

このイントロダクションでは,シングル・セッション・セラピー(single-session therapy: SST)を最近の歴史の中に位置づけ,そして,なぜ私がこの療法に興味をもつようになり,CBTによるシングル・セッション・セラピー(SSI-CBT)を開発したのかについて概説する。

シングル・セッション・セラピー―近年の動向

SSTは,モーシイ・タルモン(Talmon, 1990)によるこのテーマの代表的な著作以降に発展し,関連文献は増えており,本書もその1つである。シングル・セッションのワークと(このワークの多くが行われている)ウォークイン・クリニック(walk-in clinic)に関する最近の3回の学会のうち,2回(2012年と2019年)がオーストラリアで,1回(2015年)がカナダで開催された。これはこのワークが国際的に関心を集めている証拠である(Hoyt, Bobele, Slive, Young & Talmon, 2018; Hoyt & Talmon, 2014a; Hoyt, Young & Rycroft, 2021参照)。
最近まで,セラピーは継続的なプロセスであり,1,2回しかセッションに来ないクライエントをプロセスからの「ドロップアウト」だと見なす考え方に基づいて,セラピストのトレーニングは行われていた。SSTの分野は,一貫してこの考え方に疑問を投げかけてきた。たとえば,タルモン(Talmon, 1990)は,セッションに1回だけ参加した200人の患者を対象として行った,非公式の後ろ向き研究〔訳注:ここでは,結果的に1回だけセッションに参加していた人を対象としている〕を報告している。この群の78%がセラピーを受けて自分の望むものを得たと答え,10%だけがセラピストやセラピーの結果について,好ましくなかったと答えたことを彼は明らかにした。その後,ホイト,タルモン,ローゼンバウム(Hoyt, Talmon & Rosenbaum, 1990)は,60人のクライエントを対象に,シングル・セッション・セラピーに関する前向き研究〔訳注:ここでは,前もって計画されたシングル・セッション・セラピーに参加した人を対象としている〕を計画的に実施し,そのうち58人がフォローアップの対象となった。その58人のうち,34人はそれ以上のセラピーを必要とせず,88%が「非常に改善した」または「改善した」と考えており,79%が自分にはSSTで十分だと考えていた。この研究によって,セラピーに1回だけしか参加しない人を「ドロップアウト」だと見なす考え方に,問題のある可能性が示唆された。私は,少し皮肉を込めて,セラピーからの「ドロップアウト」の新しい定義を提案した。「セラピーからのドロップアウトとは,そうすべきだとセラピストが考える前に,セラピーから去っていく人のことである」と。1回のセッションで生産的なワークが可能であることが受け入れられると,SSTを設計するというアイデアを多くの人が模索し始め,それは治療環境やオリエンテーションの違いによって異なる展開となった。
治療環境については,前述の通り,多くのSSTがウォークイン・サービス(ドロップイン・センターと呼ばれることもある)[注1]で行われている。これらはおもに,必要なときに話したい,また,継続的なサービスの利用を負担に感じる人が利用している。このようなクライエントの中には再び利用する人もいるが,こういったサービスにおける職員は,そのクライエントとは一度きりだと想定して,それに応じたワークを設計している。別の治療環境であるライブまたはオンラインにおいて,聴衆の前で治療の実演を行ったり,DVDに収録したりすることがあるが,セラピストもクライエントも二度と会わないとわかっているので,基本的には1回のセッションだといえる。このようなセッションでも多くの生産的なワークを行うことができ,こういったデモンストレーションで行われたワークは,より正式なSSTに有益な情報を与えると私は考えている(Dryden, 2018, 2019, 2021a, 2021b)。
治療のオリエンテーションについていえば,問題解決やクライエントの弱みへの取り組みよりも,解決策の構築やクライエントの強みの活用を重視するソリューション・フォーカスト・セラピー(SFT)の理論家や実践家が,SSTに魅力を感じるのは当然かもしれない。しかし,CBTをはじめ,他のさまざまな治療アプローチがSSTに広く関心を示してきた。オストはCBTの視点から,さまざまな単一恐怖を治療するための効果的なシングル・セッションのアプローチを開発したが,このアプローチは,患者の不安の程度が明らかに低下するまで,恐れている状況にとどまる必要があるという考えを前提としている(Davis III, Ollendick & Öst, 2012参照)。このやり方では,1回のセッションの治療時間が50分よりかなり長引くことが珍しくなかった。このように,このアプローチは認知行動療法的であり,恐れている対象を患者が直接体験することをとても重視している。この体験の重視は,パニック障害の標準治療プロトコル(Salkovskis, Clark, Hackmann, Wells & Gelder, 1999参照)を修正してアンジェラ・ライネッケ(たとえばReinecke, Waldenmaier, Cooper & Harmer, 2013)が始めた別のCBTシングル・セッションの治療アプローチの特徴にとてもよく似ている。パニック障害のCBTモデルと安全確保行動(safety-seeking behaviour)の役割,そしてそのような行動をとらずに恐れている状況に曝露する重要性を説明した後,患者には関連する状況で,すぐにこれを実践する機会が与えられた。このシングル・セッションの治療から,非常に有望な結果が得られている。このように,セッションにおける解決策のリハーサルを重視することが,シングル・セッション・ワークの特徴である(Dryden, 2021c)。

シングル・セッション・セラピー―これまでの私の歩み

CBTによるシングル・セッション・セラピー(SSI-CBT)の開発に対する私の興味は,関連する多くの資料によって生まれた。1970年代に訓練を受けた多くのカウンセラーと同様,『グロリアと3人のセラピスト』の映画を見ることはまるで義務のようだった。この映画では,3人のセラピストがグロリアというクライエントと面接を行い,自分たちの治療アプローチを実演していた。この一連の映画で注目すべき点は,それぞれのセラピストが,彼らが実演する治療アプローチの創始者であるということだ。つまり,カール・ロジャーズ(現在,パーソンセンタード・セラピーとして知られている療法の創始者),フリッツ・パール(ゲシュタルト療法の創始者),アルバート・エリス(現在,論理情動行動療法として知られている療法の創始者)である。
当時は知らなかったが,グロリアはどのセラピストともそれ以上のセッションを行わなかったので,これらの面接は本来,シングル・セッション・セラピーの例といえる[注2]。「キャシー」と「リチャード」と呼ばれるクライエントを扱ったこのような映画がさらに2シリーズあり,グロリアの映画ほどこの分野へのインパクトはなかったものの,認知行動療法を代表する臨床家が,1回のセッションで何ができるかを私に教えてくれた。アーノルド・ラザロ(CBTに基づくアプローチであるマルチモーダル・セラピーの創始者),アーロン・T. ベック(認知療法の創始者),ドナルド・マイケンバウム(認知行動変容〔Cognitive Behaviour Modification〕の代表的提唱者)はみな,それぞれのクライエントと実施した1回のセッションで効果的にワークを行っていた。私がシングル・セッションのワークに興味をもつようになったもう1つの大きなきっかけは,有名なフライデーナイト・ワークショップでアルバート・エリスが行ったライブセッションである[注3]。このワークショップは,アルバート・エリスが自分のニューヨークの研究所にいた時期,毎週金曜の夜に,彼がある特定の感情の問題を抱える2人と行った面接である。それぞれの面接後,エリスとボランティアは,聴衆であるメンバーからの質問に答えたが,聴衆の観察は適切なことが多かった[注4]。エリスと,後に彼の妻になるデビー・ジョフィが行った研究によって,ボランティアは,エリスとの1回の短いセッションからしばしば十分な助けを得ていることが示された。また,ほとんどのボランティアは,聴衆であるメンバーからの提案も役に立ったと考えていた(Ellis & Joffe, 2002)。エリスはさらに,聴衆もこれらのセッションを見たり聞いたりすることが助けになったと述べているが,これについては調べられていない。
フライデーナイト・ワークショップに興味をもった私は,エリスの生前も死後も,何度もアルバート・エリス研究所を訪れ,これらのワークショップのセラピストを務めた[注5]。この経験から,自分がシングル・セッションという形式にとても魅力を感じていると気づいた。クライエントや聴衆からの非公式のフィードバックによると,私のワークは評価されていた。この後私は,クライエントと私が1回だけのセッションを行うシングル・セッション・セラピーの実践を,対面やオンラインの聴衆の前で行ってきた。このようなことを,さまざまな場所や国で実施した。
このように,私があるテーマでワークショップを行うときはいつも,そこで検討するテーマに関する問題を抱えている1人または複数のボランティアに対して,どう私が治療的に働きかけるかを実演する。また,より一般的なワークショップを行う場合には,ボランティアに前に出てもらい,その人たちが選んだ問題について話し合う。形式はおおむね同じであり,フライデーナイト・ワークショップの形式から派生したもので,面接に続いて,聴衆のメンバーが意見や質問をセラピストである私やクライエントに対して投げかける。さらに,私は2つのことを行う。まず,面接をデジタル録音し,そのコピーをクライエントに渡す[注6]。次に,録音したものを文字に起こし,希望があればクライエントに提供する。私はこの両方のコピーを保管して,セルフスーパービジョンの手段としてどちらも参考にしている。私は,デジタル音声記録(DVR)と逐語記録の双方を考案し,本書で説明するCBTによるシングル・セッション・セラピー(SSI-CBT)のアプローチに組み込んでいる。
先ほど私は,グロリア,キャシー,リチャードの3部作の映画に影響を受けたと述べたが,そこでは一流のセラピストがCBTやCBT以外のワークを実演していた。その後,私は自分が興味をもっている先延ばしや罪悪感といった問題を抱えたボランティアのクライエントに対して,私自身がセラピーを行う様子をいくつかDVDにしてきた。これらのライブや録画されたシングル・セッションの様子はすべて,長年にわたって私のアプローチを改良するのに役立ち,SSI-CBTの開発へと実を結んだ。
ここまでは,SSTに関する私の考え方に影響を与えた実践を中心に述べてきた。さらに,私の考え方は,日々の実践で起きた出来事によって形成された。まず,SSTに携わる多くの人と同様,長年にわたり私は,最初のセッションの終わりに予約を入れたけれど,考えてみると最初のセッションだけで十分でしたと言って,後でキャンセルする人の数にショックを受けてきた。タルモン(Talmon, 1990)が行ったように包括的に,自分の担当したケースから個別に聞き取ったわけではないが,戻らなかった理由を挙げた人は,最初のセッションが,次のような点で役に立ったと述べている。つまり,広い視野で物事を捉えること,問題やそれに関連する要因について別の考え方をすること,関わっている問題に自分が思っていたよりも対処できると気づくこと,である。認知行動モデルになじんでいる人にとってこれらは,条件さえ整えば何がすぐにできるのかを示している。
第2に,セラピーをごく短期間利用する人もいる一方で,長期間にわたりさまざまな時点で利用する人もいることに長年かけて気づいた。つまり,多くのクライエントが1,2回のセッションを受けて,その後やめて,長い時間が経ってから別の問題を話し合うために戻ってきて,またごく短期間だけこれを行う,というのを見てきた。このような人たちは,ライフサイクルのさまざまな時点で,非常に短い介入から利益を得ているようであった。このような人々の治療上のニーズに対応するために,私は自分の実践を修正する必要があった。私は,継続的なセラピーというプロクルステスのベッド〔訳注:既存の基準に合わせるように強制すること〕にその人たちを合わせるよりも,そうすることを受け入れた。
そのような人たちを引き受けると,結果的に,1回だけのセッションで会うというさまざまなパターンが生じた。つまり,それ以上のセッションを希望しないので,私に1回だけ会うことを望む人がいる。また,セラピーを受けている人の中には,自分の状況についてセカンドオピニオンを求めてきたり,セラピストに勧められてそのような意見を求めて来る人もいた。さらに,CBTについて聞いたことがある人は,より長い治療のコース(必ずしも私との治療でなくても)を受ける前に試してみたいと考え,1回だけの「お試し」セッションを受けることを希望した。私は,これらすべての要望に喜んで応えてきたので,それに応じて自分の実践を修正しなければならなかった。
このイントロダクションでは,SSTの歴史的背景を簡単に説明し,私が何に影響されてこの分野に関心をもつようになったのかを述べ,最終的に,CBTによるシングル・セッション・セラピー(SSI-CBT)と呼ばれるアプローチの開発に至ったことを述べた。本書の第Ⅰ部で,まず,その理論的枠組みを説明し,第Ⅱ部では,その実践について考える。

注釈

1 英国のドロップイン・センターは,精神的健康の増進を目的とした施設で,一般的に訪問して利用できる。訪れた人は出迎えを受けて,施設を見てまわったり資料を調べたりするように勧められるが,相談を望むのなら,それに役立つようなサービスを「案内」してもらえる。このような「ドロップイン」サービスでは,セラピーは行われないことが多い。これに対して,オーストラリア,カナダ,アメリカでは,ウォークイン・センターで,その人が抱えている問題に関してすぐセラピーを受けることができる。
2 しかし,グロリアは,カール・ロジャーズとのセッション後に,彼と文通を行っていた(Burry, 2008)。
3 当初,臨床的な問題ではなく,日常の問題に対して支援が提供されるという意味合いを伝えるために,「生活上の問題」と銘打って開催されていた。
4 観察があまり適切ではないときもある!
5 エリスが亡くなってからも,REBTのシングル・セッションを一般の聴衆の前で行う伝統は,「フライデーナイト・ライブ」という新しい名称のもとで継続されている。トレーニングを積み経験を有する多くのREBTの実践家が交代で,このイベントでのセラピストとして活躍している。これは,Covid-19の流行下でも続けられてきた。
6 セッションのデジタル音声記録(DVR)を入手するためには,電子メールで私にコピーを希望する必要がある。そうすると,私はクラウドサービスを通じてそのコピーを送り,クライエントにダウンロードのリンクを提供する。このような録音は,メールに添付して送るには容量が大きすぎるからである。

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メディア掲載

『こころの科学』2024年5月号に書評が掲載されました。評者は石川信一氏(同志社大学)。『こころの科学』2024年5月号