Instagramの「いいね」数による気分の変化は,「人との比べやすさ」によって決まる?

『パーソナリティ研究』内容紹介

若者に人気のInstagramでは,投稿された写真と文章に対して,フォロワーが「いいね」やコメントなどをつけて反応をします。自分の投稿に対する「いいね」の数が友人の投稿と比べて多いのか少ないのかによって気分が変化するのかが検討されました。(編集部)

長村圭吾(おさむら けいご):筑波大学人間総合科学学術院心理学学位プログラム博士後期課程2年。→webサイト

Instagramって?

多くの若者が使っているSNSにInstagramが挙げられます。Instagramは,行った場所,食べたもの,恋人とのツーショットなど,写真とともに文章を投稿するプラットフォームです。投稿には,フォロワーが「いいね」やコメントなどをつけて,反応をすることができます。

Instagramに関する研究

これまでの研究では,Instagramに投稿したという仮想的なシナリオを用いて,もらった「いいね」数の多さによって気分(ポジティブか? ネガティブか?)が変わるかを実験していました。しかし,研究によって,数が多いとポジティブになることを示したものもあれば,気分は「いいね」数によってあまり変わらないことを示したものもあるなど,結果は一貫していません。すなわち,その違いを規定する「第3の要素」があるということがわかりました。

この研究の着眼点

そこで,本研究では,人と比べて「いいね」数が多いか少ないか?という要素と,「人との比べやすさ」を表す心理的概念である「社会的比較志向性」の2つに注目しました。実験では,これまでの研究を踏まえ,Instagramに投稿したという仮想的なシナリオを用いました。その後,①「いいね」数が「友人と比べて」多い条件,②「いいね」数が「友人と比べて」少ない条件,③友人の「いいね」数を知らない条件に参加者を振り分けました。また,それぞれの条件で「社会的比較志向性」と「気分」の質問に答えてもらいました。

結果の概要

分析の結果,統計的に有意ではありませんでしたが,友人より「いいね」数が少ないとネガティブになるという現象は,とくに「社会的比較志向性」が高い人において顕著に見られることがわかりました。したがって,他人と比べやすい人ほど,自分が友人よりもInstagramで「いいね」を得ていないと,ネガティブになってしまう可能性があるということが示されました。

fig01

(注) 「統制」は,友人の「いいね」数を知らない条件のことです。「社会的比較志向性得点」の横軸の-1SDは,「得点が相対的に低い人」,+1SDは,「得点が相対的に高い人」と読み替えてください。

なぜこのテーマを研究しようと思ったのか

簡潔に言うと,私自身がとても人と比べてしまうからです。実際に,私もInstagramで多くの「いいね」をもらえても,友人の方が「いいね」が多かったら落ち込んでしまったこともありました。「なぜそんなことで落ち込むのか」と思われる方もいるかもしれません。しかし,他者と比べてしまう人は,どんな指標であれ,比較される状況になると多少の落ち込みがあるのだと思います。この研究は,私が岐阜大学にいたときに出した卒業論文を修正したものですが,「本当に自分と同じ傾向にある人がいるのかな?」と疑問を抱き,データを取ってみたという経緯があります。

最後に

じつは,私はもうSNSの研究をしておりません。しかし,SNS市場はどんどん変化していきます。Twitterは名前が変わり,Instagramにもいろいろな機能が追加され,BeRealなどの新たなプラットフォームもどんどん登場しています。なので,SNSの研究もまた加速していく見込みがあります。そのような中で,直感的には重要性がイメージしやすいですが,あらためて「他人と比べてしまう」という個人に合った支援や政策を打ち出す必要があるのではないでしょうか。その意味で,今回の私の研究が,「他人と比べてしまう」人に対する支援の1つの手がかりになれば嬉しいなと思っています。

と同時に,この文章を書いていたら,やっぱりSNSの研究って面白いなと感じました。「時間があったら,最近のSNSに関する心理学研究を見て,何かデータが取れればいいな」という淡い期待を抱きながら,この紹介を締め括りたいと思います。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

論文

長村圭吾・月元敬 (2024).「Instagramの「いいね」数が投稿者の気分に与える影響の検討――社会的比較志向性に着目して」『パーソナリティ研究』33(2), 136-138.