978-4-908736-18-6_cover

 

生命(いのち)を理解する心の発達

子どもと大人の素朴生物学

外山紀子 著

発行日: 2020年7月31日

体裁: 四六判並製208頁

ISBN: 978-4-908736-18-6

定価: 1900円+税

ネット書店で予約・購入する

電子書籍あり

内容紹介

生命現象に関する理解と「誤解」

子どもや大人は,生命(いのち)をどのように理解しているのだろうか。生命あるものとないもの,成長や老化,病気,心と身体,遺伝や死などの生命現象に関する理解から見えてくる,ヒトの認知の本質とは。

目次

第1章 生命あるもの

第2章 成長と老化

第3章 病気

第4章 心と身体

第5章 遺伝

第6章 死

終章 生命現象に関する理解とヒトの認知の本質

著者

外山紀子(とやま のりこ)

1993年,東京工業大学総合理工学研究科システム科学専攻博士課程修了。博士(学術)。現在,早稲田大学人間科学学術院教授。

主要著作に,『発達としての共食―社会的な食のはじまり』(新曜社,2008年),『やさしい発達と学習』(共著,有斐閣,2010年),『乳幼児は世界をどう理解しているか―実験で読みとく赤ちゃんと幼児の心』(共著,新曜社,2013年),『生活のなかの発達―現場主義の発達心理学』(共編著,新曜社,2019年),『共有する子育て―沖縄多良間島のアロマザリングに学ぶ』(共編著,金子書房,2019年)など。

はしがき

本書のテーマは,生き物であれば誰もが一つしかもっていないもの,生命である。一つしかないからこそ,私たちは新しく迎える生命を待ち遠しく思う。そして,無事に生まれるよう祈り,さまざまな準備を整える。かけがえのないものだからこそ,生命が失われると深い喪失感に襲われ,その心にふんぎりをつけるためにも古来の儀式を粛々と執り行う。スペアがないからこそ,自分の生命が長く続くよう気を配り,不具合を見つけたら速やかに対処する。どれだけ科学が発達し医療技術が進歩したとしても,またどのような社会・文化に属していても,生命が一つであることに変わりはない。時代や社会を超えて,生命の前ではみな平等である。

生命あるものには,それが動物であれ植物であれ,共通の生命活動を見ることができる。幼体から成体へという成長があり老化がある。生殖活動によって生命が継承されていく。病気になったり外傷を受けたりしても,そのダメージを自己回復する力がある。しかし力及ばず,死に至る場合もある。死は生命あるものにとっては不可避であり,一度死んだら元には戻らない。

ヒト,イヌ,アリクイ,ドードー,カメムシ,ハチ,ヒマワリ,ケヤキ,これらの生き物は,外見こそ大きく異なるが,等しく誕生,成長,老化,生殖,病気,そして死を経験する。一方,ゼンマイじかけのサルのおもちゃ,人形,二足歩行ロボット,アンドロイド,造花のアサガオは,生き物に似た外見でも,成長することも,老いることも,病気になることも,死ぬこともない。子どもは見かけの類似性に惑わされずに,生命あるものとないものの本質的相違にいつ気づくのだろうか。認知発達研究では一九八〇年代以降,生命現象(生物現象)に関する理解がさかんに検討され,成長や遺伝,病気といった生き物固有の現象について,幼児が荒削りではあるものの,生命の本質をとらえた理解を有することが明らかにされている。本書の一つの目的は,こうした近年の研究成果を紹介することにある。かつての発達心理学では,乳幼児はカオス(混乱)の世界に生きており,視覚や聴覚といった知覚能力も,記憶能力も,もちろん推論能力もまったく未熟であると考えられていた。ところが,言語に頼らない研究法の確立や神経科学(脳科学)の発展などにより,乳幼児に対する見方は,未熟な者から潜在的有能さを備えた者へと大きく変化した。生命現象に関する理解もその例外ではない。

本書のもう一つの目的は生命に対する大人の理解についても取り上げ,ヒトとはどのような存在かについて考える材料を提示することにある。かつて乳幼児期の未熟さを示すとされた認知的特徴が,近年,大人にも報告されている。住んでいる地域も生活環境も,信仰も教育的背景も異なる多くの大人が共通して〝未熟な〟思考を露呈する場合があるのだ。そしてその〝未熟な〟思考は,はるか昔の人々の考え方と類似していることも指摘されている。時代や文化を超えて認められることから,生命現象の理解に見られる〝未熟さ〟は,ヒトに本来的に備わった認知の傾向と見ることもできる。生命を守りつないでいくことは生き物にとって重大な使命であり,そのためにヒトは古来,知恵をしぼってきた。遺伝子レベルでの治療が行われるようになった現在でも,このことは変わらない。たとえ科学的に〝正しい〟答えが提示されても,ヒトは自分なりの答えを見つけ出そうと奮闘する。ここに,汎時代的,汎社会的に共通の傾向が認められる所以があるのだろう。

本書では,以下のテーマを取り上げる。生命あるものとないものの区別(第1章),成長(第2章),病気(第3章),心と身体(第4章),遺伝(第5章)そして死(第6章)である。生命現象に関する素人の理解は,認知発達研究では「素朴生物学」(naive biology)と呼ばれ,これまでに多くの研究が行われている。本書は研究論文ではないので,各テーマに関する素朴生物学研究を網羅的には紹介しない。しかし,生命に関する見方・考え方を知るうえで重要な,そして示唆するところの多い研究については,具体的な課題にも触れながら紹介していきたい。発達心理学の専門知識をもたない読者にも,生命現象に関する認知の面白さをお伝えできれば幸いである。

関連記事

関連記事をサイナビ!に掲載しました。「コロナ禍に見る魔術的伝染の心」