内部告発と組織不正の心理(4)
Posted by Chitose Press | On 2017年09月26日 | In サイナビ!, 連載組織による不正が,内部告発により明らかになる事件があとを絶ちません。なぜ組織不正が生まれるのでしょうか。内部告発とはどのようなものなのでしょうか。社会心理学,社会技術がご専門の岡本浩一教授に話を伺いました。最終回は,日本や海外の組織風土についてです。
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岡本浩一(おかもと・こういち):東洋英和女学院大学人間科学部教授,社会技術研究所所長。社会学博士。主著に『会議を制する心理学』(中公新書ラクレ,2006年),『組織健全化のための社会心理学――違反・事故・不祥事を防ぐ社会技術』(新曜社,共著,2006年),『属人思考の心理学――組織風土改善の社会技術』(新曜社,共著,2006年)など。
日本は属人思考・権威主義に傾きやすい
日本の政治文化は属人思考になりがちな文化だと思います。第二次世界大戦のとき,ドイツ,イタリア,日本が「枢軸国」と言われましたが,この3つの国は,アメリカやイギリスとは違って,権威主義的文化をもっています。子どもは父親に殴られるなど親子関係が権威主義的ですし,学校の先生と生徒のあり方もそうです。アメリカの学校に行くとずいぶん違ってびっくりします。権威主義をゼロにしなくてはいけないとは思わないのですが,放っておくと日本は権威主義の方に行きがちということはあります。
昔,私がオレゴン大学にいたときに娘が現地の小学校に行っていて,親のボランティアが子どものフットボールのコーチをするのを見学したことがあります。親がフットボールのコーチをしていて,フロントのポジションのメンバーを集めて教えていると,後ろのポジションの子どもたちが近くのネットに昇り出したりする。フロントのメンバーへの話が終わったら,後ろのポジションのメンバーにネットから降りて集まるように呼ぶところから始めなければいけない。全部がそのような感じです。授業で起立・礼・着席なんてありませんし。
日本だと給食を食べるときも,みんなが用意できるのを待って「いただきます」と言うでしょう。アメリカではそんなことはありません。日本人はみんなそろって「いただきます」と言って食べた方がおいしいと思うところがあります。細かいところを権威主義的にした方が落ち着くところがあるのです。組織も,欧米以上に権威主義的にやっている方が気持ちいいところがあります。それが文化としては強みの面にもなると思います。
『海賊とよばれた男』(1)という映画がありますが,あれは映画としてはよくできていて,元の小説を率直に反映しています。あの映画で,後発の石油会社が他社を抜いていくときに,社員を仲間だと言って夜も昼も関係なく働かせ,「親分のために」というのが美談みたいになっている。私はしらけてしまいました。これは美談でも何でもない,いまでいうとコンプライアンス違反です。でも映画でコンプライアンス違反なんて言うと,それこそしらけちゃうでしょう。
これが美談として大衆受けすることからもわかるように,日本は,ある程度権威主義に傾きやすいわけです。それが魅力の部分もある。そちらに傾きすぎないような仕組みや上の人の自制心が必要になってくるのだと思います。
先生と生徒の関係が違うのは,小学校・中学校だけでなくて,大学でもそうです。私が昔,ポール・スロヴィック先生に指導を受けに行ったときに,先生を「ポール」と呼んでいました。アメリカの大学院の一般的な慣習では,西海岸では大学院に入ると先生をファーストネームで呼ぶ。東海岸は,Ph. D.(博士学位)をとったらファーストネームで呼んでいい。オレゴン大学では学部の学生でも「ポール」って呼んでいますからね。でも尊敬はしているのですよ。英語という,敬語的構文をもたない言葉を使いながらも,敬意というものはきちんと伝わります。それでも言葉からしてフラットですよね。日本とは権威勾配が違います。