内部告発と組織不正の心理(4)

私やポール・スロヴィックと友達だったランディ・クライヘッセリンクという有名な研究者がいて,ある研究会に彼を呼んで彼のデータを見ていたところ,ポールがランディに,「ランディ,このデータはおかしいと思う。どこかで入力を間違えたんじゃないか」と言うのです。ランディは,そんなことはちゃんとチェックしていると自信があったようで,話を前に進めようとするのですが,ポールは「データをチェックした方がいい」とそれしか言わないんです。自分が研究会に呼んでおいてですよ。それでも,その後,普通に一緒にご飯を食べていました。

向こうは議論がきつくても平気なんだね。まあとくに学者だったらそうなんでしょう。日本で言えば将棋みたいなものですね。加藤一二三先生とかみたいに。

プロであれば,企業の大事な意思決定で,何十億・何百億にもなるような話のときは,反対すべきときは反対して,その後に一緒にご飯を食べに行けるというのが大事なことなのではないですかね。取締役同士で意見を戦わせるということも,日本ではあまりないですが,もっとあった方がいいです。

――急に議論のやり方だけ変えるというのも難しいでしょうか。

例えば,企業で立食パーティをするとか,意思決定とは違った場所での工夫が必要なんだろうと思います。あと,いまは減ってきているのかもしれませんが,チャットで会議するのが一時期はやりました。外資系の企業だと,よく電話会議で決めることがあります。日本でもテレビ電話会議をする企業がありますよ。海外の人に聞いたら,テレビ会議の方が反対しやすいと言っていました。そうした,会議のやり方を研究することも大事です。

――日本では,批判しながら議論することを就職するまでにしてきているかというとやっていないかもしれません。

日本ではやっていないね。どちらかと言うと,意見するのを我慢するとか,不適切なタイミングで言わないようにしているでしょう。それがうまくいかないで,大きな問題になることがある。昔は,上の人が,こいつは口には出していないけれど反対なんだなと思ったら,手控えるという「美風」があったと思うんです。それが機能しているのであればよかったんだと思います。東芝でもそうだったのでしょう。最近は,誰も反対しないな,目つきだけだなと思ったら,「これでいいかね」と強行しちゃうでしょう。企業自体が切羽詰まっているということがあるかもしれませんが,意見をきちんと言うようにするか,上の人が節度をもつか,どちらかがないといけないですね。

でもどちらかというと,今後は組織にいろいろな文化の人が入ってくるでしょうから,きちんと言う方がよいのではないでしょうか。

(了)

→この連載をPDFで読みたいかたはこちら

文献・注

(1) 映画『海賊とよばれた男』(山崎貴監督,2016年公開)。原作は百田尚樹による。

(2) 岡本浩一 (2016).『会議を制する心理学』中央公論新社

(3) (2)を参照。


1 2 3
執筆: