あなたは障害者をどう思いますか?――身近な問題としての偏見や差別(3)

それでは,このような質問をすれば万事うまくいくか……というとそれほど単純ではない。

1つは,現代の社会にある問題(差別)がわかりにくい点である。連載の第1回でも触れたように,現代の差別は曖昧であり,明示的でないことが多い。例えば就職試験において,その過程が適切に真摯に行われていれば,不採用になったとしても本人の特性が理由なのか障害が理由なのか不明確である(これを帰属の曖昧性という)。評価される状況において,差別に意識を向けることも,非常にストレスフルであり,本来の課題に集中できず,結果的にパフォーマンスが低下してしまうことも考えられる。

では,曖昧な差別を特定して帰属先を明確にすればよいのだろうか? 否,差別を追及することにもリスクがある。差別を指摘することで,周囲から「トラブルメーカー」や「やっかいな人」だと思われ,否定的な評価をされるかもしれない。実際マイノリティは,私的な場面で同じマイノリティに対してならば差別を指摘するが,公的な場面でマジョリティに対しては指摘を控える(5)。差別を追及しなければ変わらないが,追及すれば嫌われ排除されるリスクがある。結果として,マイノリティの意見は封じ込められやすい。

特にまわりを気にする風潮が強い日本においては,なおさらマイノリティの人は苦言を呈しにくく,泣き寝入りするしかない状況に追い込まれやすいと考えられる。

障害が,その心身機能以上に障害を生じさせていることがわかるだろう。障害とは相対的なものであり,「障害」は本人にあるのではなく,人と人との間に生じるものである。多数派と大きく異なる特徴をもつ人を「障害者」と見なすとき,「障害」は生まれ,相手を無力に導かせる。障害自体の問題で「できない」のではなく,多数派から忘れられ,つくられた社会の中で,多数派から「できなくさせられている」のだ。

しかし,「できない」ことそのものが障害者を不幸にさせているわけではない。目も耳も聞こえないヘレン・ケラーは,「障害は不便であるが不幸ではない」と述べた。この言葉は,ヘレン・ケラーが周囲の人に恵まれていたから言えたことであろう。

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障害の有無に限らず,人間にとって最もつらいことの1つは孤立させられることである。手話を使うろう者よりも音声言語を用いる難聴者の方が,聴覚障害の程度は軽いが,孤立しやすく,精神的健康は低い。コミュニケーションの得意な障害者よりも,コミュニケーションの苦手な健常者の方が排除されていることもある。診断基準をぎりぎり満たさず障害者手帳を取得できないグレー・ゾーンにいる人は,支援を受けられずに生きていくことがままならないこともある。障害児をもつ親の幸福感に最も影響を及ぼしているのは,子どもの障害の重さではなく,社会的なサポートである(6)

障害とは,人の助けを必要としているシグナルである。社会の変動が激しい世の中においては,いつ自身が多数派から外れ「障害」化されるかわからない。「障害者」とされることの問題は,いわゆる「健常」の人の傍にもある。互いが支え合うことの必要性を,「障害」は示している。

第4回に続く

文献・注

(1) Wang, K., & Dovidio, J. F. (2011). Disability and autonomy: Priming alternative identities. Rehabilitation Psychology, 56, 123-127.

(2) 40歳を機に施設を出て自立生活を始めようとした障害者を映したドキュメンタリー『障害者イズム』を観ると,ハードルの高さをありありと感じるだろう。

(3) マイケル・オリバー『障害の政治――イギリス障害学の原点』(三島亜紀子・山岸倫子・山森亮・横須賀俊司訳,明石書店,2006年)の中で紹介されていた,イギリスの国勢調査局が行った面接調査の項目。一部を抜粋した。

(4) 伊藤亜紗webサイトProject

(5) Stangor, C., Swim, J. K., Van Allen, K. L., & Sechrist, G. B. (2002). Reporting discrimination in public and private contexts. Journal of Personality and Social Psychology, 82, 69-74.

(6) Resch, J. A., Benz, M. R., & Elliott, T. R. (2012). Evaluating a dynamic process model of wellbeing for parents of children with disabilities: A multi-method analysis. Rehabilitation Psychology, 57, 61-72.


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