意味を創る――生きものらしさの認知心理学(1)

「見える」と「いる」:パレイドリア現象と幻視

パレイドリア現象に似たものとして,物理的現実としては存在しない何かを見る(聴く)幻視や幻聴などの幻覚があります。パレイドリアと幻視の関連について考えてみましょう。

レビー小体型認知症(DLB)は,アルツハイマー型についで発症数が多い認知症で,初期の段階から幻視をよく見ることが特徴的です。特に,閃光やきらめきなどの単純幻視よりも,複雑幻視と呼ばれる人物や動物などの意味を有する幻視が現れることが圧倒的に多いとされています(11)

一般には幻視というと,物理的現実としては何ら特別な対象が存在しない空間に何かが見えてしまうことを意味しますが,DLBの複雑幻視は物理的現実の中に存在するモノを人物や動物など他の対象に見誤る,ということが多いようです。この点でDLBの複雑幻視とパレイドリアは現象として似ています。

東北大学ではパレイドリア・テストという手法を開発し,風景画や無意味な模様を示してパレイドリア現象を誘発・定量することに成功していますが,このテストではDLB患者がそれ以外の人たちよりも多くのパレイドリア反応を示すことがわかっています(12)

このように現象としては通常のパレイドリアとDLBの複雑幻視は似通っていますが,大きく異なるのがその「リアリティ」です。通常であれば,パレイドリア現象で人物や動物,顔などを認識したとしても,またその結果として注意の移動や視覚検出に影響を与えたとしても,そのような認識が錯覚でありリアルには存在しない(いない)と明確に自覚することができます(ただし,幽霊を信じていて,墓場でぼやっと見えた幽霊を本気で怖がるような状況では,パレイドリアにリアリティが付加されていると考えることができるかもしれません)。

一方でDLBの複雑幻視はリアリティを伴っており,錯覚であるという自覚が薄弱です。言い換えれば,幻視においてパレイドリア的に見えたものは,実体と伴って「いる」「ある」と認識されます。

このように,パレイドリア現象で何かが「見える」ということと,そこにリアリティを伴って何かが「いる」ように感じるということの間には,確かな違いが存在します。

少し話はそれますが,子どもは仲良しのぬいぐるみに「いる」を感じているようにも見えます。大人であっても,ぬいぐるみを引きちぎったり,燃やしたりすることはためらわれるでしょう。冒頭の添い寝しめじを,躊躇なく鍋に投げ込めるでしょうか? そう考えると,「見える」と「いる」の境界はじつは曖昧なのかもしれません。

「見える」と「いる」の間がリアリティという軸の上で連続的なものなのか,それとも「いる」には質的に異なる何かが必要なのか,脳で創られた意味にリアリティが与えられる条件は何なのか,ワクワクする問題ですが,まだほとんど手がつけられていません。さらなる研究が待たれます。

今回のまとめ

今回はパレイドリア現象を中心に紹介しました。要点は以下の通りです。

・無意味な模様,風景,物体などが,別の意味のある何かに見えることがある。生きもの(動物)や顔が見えることが多い。

・場合によっては物理的現実よりも脳で創られた意味が知覚や行動を決める。

・脳で創られた意味あるモノが「見える」と「いる」の間にはギャップがある。

パレイドリア現象は一言で言えば,「∵が顔に見える」,ただそれだけのことです。ですが,しめじの謎や「意味を創る」という人間の重要な認知機能ともおおいに関係がありそうです。イグノーベル賞以来,パレイドリア研究の機運は確実に高まっていますので,今後も乞うご期待!

次回はより高次な意味の創造ともいうべき,生きものらしさの認知や意図の認知について紹介する予定です。

第2回に続く

文献・注

(1) Twitter: @showkitchen_「添い寝しめじ。

(2) Google画像検索「パレイドリア

(3) Google検索「パレイドリア まとめ

(4) Liu, J., Li, J., Feng, L., Li, L., Tian, J., & Lee, K. (2014). Seeing Jesus in toast: Neural and behavioral correlates of face pareidolia. Cortex, 53, 60-77.

(5) The 2014 Ig Nobel Prize Winners

(6) 第1回
第2回

(7) 学術分野以外でも,パレイドリア現象は多くの人の興味を惹きつけているようです。例えば惑星探査機から送られてきた画像に対して画像認識技術により自動的に人型構造物を発見するMarsface Projectというものがあります(http://marproject.org/)。もちろん,本当にヒトを発見することが目的というわけではなく,「そう見えるものが宇宙の中にも普遍的に存在している」ことを楽しむ,つまりパレイドリア現象を楽しむことが目的でしょう。このプロジェクトにはじつにさまざまなバックグラウンドのメンバーが参加しているようです。

(8) Frischen, A., Bayliss, A. P., & Tipper, S. P. (2007). Gaze cueing of attention: Visual attention, social cognition, and individual differences. Psychological Bulletin, 133, 694-724.

(9) Takahashi, K., & Watanabe, K. (2013). Gaze cueing by pareidolia faces. i-Perception, 4(8), 490-492.

(10) Takahashi, K., & Watanabe, K. (2015). Seeing objects as faces enhances object detection. i-Perception, 6(5).

(11) 西尾慶之 (2014).「トピックス レビー小体型認知症 幻視のメカニズムについて」『CLINICIAN』No.634, 132-136.

(12) Uchiyama, M., Nishio, Y., Yokoi, K., Hirayama, K., Imamura, T., Shimomura, T., & Mori, E. (2012). Pareidolias: Complex visual illusions in dementia with Lewy bodies. Brain, 135, 2458-2469.  ただし,パレイドリア・テストでの「パレイドリア反応」は以下に本文中で述べるようなリアリティを伴った複雑幻視のことをいいます。


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