意味を創る――生きものらしさの認知心理学(2)

動きに感じる生きものらしさ

私たちは生きものらしさをどのように認識しているのか,そして世界を認識する際にどのように「意味を創る」のか。この問題に中京大学の高橋康介准教授が認知心理学の観点から迫ります。第2回は動きに感じる生きものらしさを紹介します。(編集部)

連載第1回はこちら

Author_TakahashiKosuke高橋康介(たかはし・こうすけ):中京大学心理学部准教授。主要著作・論文に,Seeing objects as faces enhances object detectioni-Perception, 6(5),2015年,共著),Synchronous motion modulates animacy perceptionJournal of Vision, 15(8), 17,2015年,共著)。→Webサイト,→Twitter(@kohske

前回はパレイドリア現象を取り上げて「意味を創る」という認識の不思議を紹介しました。その中で,パレイドリアで見えるものは圧倒的に「生きもの」が多いという話をしました。

「生きもの」とは簡単に言えば「生命が宿るもの」ということです。しかし「生きもの」を科学的に定義することは簡単ではありません。この連載では科学的に厳密な「生命」の定義にはあえて触れずに,前回同様「意味を創る」という切り口から,心理的・主観的な「生きものらしさ」を取り上げます。

雲やコンセントが顔に見えてしまうパレイドリア現象と同じように,実際の生きものとは似ても似つかない外見をもった何者かが,どうしても生きものに見えてしまうことがよくあります。今回はさまざまな映像を見ながら,私たちが感じる生きものらしさについて考えてみたいと思います。

BigDogの衝撃

2005年,Boston Dynamics社というアメリカのロボット開発会社が,BigDogと呼ばれる4足歩行ロボットの映像をYouTubeで公開しました(動画1)。ご存知の方も多いかもしれませんが,その映像です。

動画1 初代BigDog(1)

著者が初めてこの動画を見たのは10年ほど前だったでしょうか。そのときに感じた「BigDogの衝撃」はいまでも忘れられません。BigDogが発する,言葉にできない強烈な生きものらしさに魅せられて以来,この感覚が何なのか知りたくて,10年近く自分自身の主要な研究テーマの1つとなっています。

BigDogの外観はいわゆる普通の生きものとは程遠いものです。4本足のようなものがついた得体の知れない胴体のようなもの,としか表現しようがありません。頭も顔も目も鼻もない,なのでどちらが前でどちらが後ろなのかさえわかりません。普通の4本足の動物とは違って前後が向かい合って曲がります。胴体には配線がむき出しの部分もあります。

今回のテーマである「動きに感じる生きものらしさ」にも関わることですが,そんなBigDogが「キモい」動きを開始した瞬間に,生きものらしさのエッセンス,あらゆる生きものの生きものらしさが凝縮されているかのよう独特な感覚を感じてしまいます。BigDogの生きものらしさの正体がこの独特の「動き」にあることに,間違いはないでしょう。

動きに感じるさまざまな生きものらしさ

BigDogからわかるように,動きと生きものらしさには密接な関わりがあるようです。じつは動きに生きものらしさを感じる現象は,心理学の研究の中では「アニマシー知覚」とも呼ばれ,20世紀半ばのミショット(A. Michotte)やハイダー(F. Heider)のデモンストレーションに端を発して以来,細々と続けられてきました。

今回は,いくつかのデモを紹介します(2)。BigDogがもつような強烈な生きものらしさのエッセンスには及びませんが,視覚と認知に訴えるさまざまなデモを通して,動きに対してさまざまな生きものらしさを感じるということを体験してください。

動画2 ミショットのデモ(3)

このデモ(動画2)はミショット(1946年頃)によるものです。Launching(動画2のA)と呼ばれる,物体が移動し,衝突して,別の物体が移動するというパターンを基本として6つのバリエーションがあります。それぞれをゆっくり眺めてみてください。物体の動きから,「押す」「追いかける」「ちょ,まてよ」といった因果や意図を含む,さまざまな印象が生まれることがわかります。


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