子どものがまんを科学する――実行機能の発達(1)

実行機能とは?

実行機能の発達

実行機能はこのような要素を含みますが、発達研究の1つの関心として、このような要素がどのように出現してくるのかというものがあります。議論はあるものの、成人における実行機能の要素が抑制、切り替え、作業記憶の3つだとしましょう。このような3つの要素は、子どもの頃から3つなのでしょうか。それとも、子どもの頃は1つだったものが、3つに分かれていくのでしょうか。もしくは、子どもの頃はもっと多かったものが3つに集約していくのでしょうか。

少しわかりにくいかもしれないので、たとえ話をしてみましょう。大人で、テニス、サッカー、野球が上手な人がいたとします。このような人は、子どもの頃からテニス、サッカー、野球が上手なのでしょうか。それとも、子どもの頃は全般的にスポーツが上手だったのが、特定のスポーツが上手になっていくのでしょうか。それとも、テニス、バドミンドン、サッカー、ラグビー、野球、ソフトボールが上手で、それが3つに集約されていくのでしょうか。

この点を検討する研究が現在多数なされています。基本的な研究アプローチとしては、さまざまな年齢の子どもや大人に多数の課題を与えて、その課題の成績を統計的な手法を用いていくつかの要素に分類しようと試みます。そうすることで、各世代での実行機能の要素が推測できるのです。このような検討をするとどのような結果が得られたでしょうか。

研究は概して、子どもにおいて要素数が少ないことを示しています。つまり、幼児期や児童期初期においては、要素は1つないしは2つであることがほとんどです。2つの要素の場合は、たいていの場合、抑制と作業記憶が報告されます。そのため、発達研究者の中には、この2つの要素が実行機能の基礎的なものだと考える者が少なくありません。ただ、2つ以上の要素が同定された場合も、説明はより単純である方がよいとする節約の原理から、多くの研究者が幼児期においては1つの要素が妥当であることを示唆しています(5)。児童期から青年期にかけては、ほとんどの研究において2つ以上の要素が同定されています(6)

実行機能の発達は、どうやら1つないしは少数の因子が、複数の因子に分化していく過程だととらえることができそうです。このような過程はじつは認知発達では珍しくありません。知能の発達も同様のプロセスを経る可能性が示唆されています。

先に、実行機能のイメージは執行取締役だと述べました。執行取締役は通常の会社では複数います。大人における実行機能のイメージは執行取締役で問題ないでしょう。ですが、子どもの場合は、1つの因子、つまり、社長を仮定した方がいいかもしれません。実行機能が社長だという考えは成人においては現在否定されていますが(7)、子どもにおいては案外あてはまっているのかもしれません。

スポンサードリンク

幼児期から児童期に実行機能は複数の要素に分化し始めるのですが、個々の課題の成績を見ても、やはり実行機能は幼児期に著しく発達します。先に挙げた白・黒課題、DCCS課題、逆唱スパン課題は、3歳から6歳頃にかけて、著しくその成績が変化します。3歳児はうまく優位な反応を抑制したり、ルールを切り替えたりすることができないのですが、6歳頃になると同じ課題においては容易に抑制や切り替えができるようになります。他の時期の発達と比べても、この幼児期における変化は著しいことが示されています(8)。幼児期は、行動を制御できるようになる時期なのです。

次回は、この重要な時期である幼児期における発達的変化を支える生物学的な基盤について見ていきましょう。

(→第2回に続く

文献・注

(1) ミシェル, W. (柴田裕之訳)(2015).『マシュマロ・テスト――成功する子・しない子』早川書房

(2) Luria, A. R. (1973). The working brain: An introduction to neuropsychology. Basic Books.

(3) Miyake, A., Friedman, N. P., Emerson, M. J., Witzki, A. H., Howerter, A., & Wager, T. D. (2000). The unity and diversity of executive functions and their contributions to complex “frontal lobe” tasks: A latent variable analysis. Cognitive Psychology, 41, 49-100.

(4) 森口佑介 (2012).『わたしを律するわたし――子どもの抑制機能の発達』京都大学学術出版会

(5) Wiebe, S. A., Espy, K. A., & Charak, D. (2008). Using confirmatory factor analysis to understand executive control in preschool children: I. Latent structure. Developmental Psychology, 44, 575-587.

(6) Huizinga, M., Dolan, C. v., & van der Molen, M. W. (2006). Age-related change in executive function: Developmental trends and a latent variable analysis. Neuropsychologia, 44, 2017-2036.

(7) 坂井克之 (2007). 『前頭葉は脳の社長さん?――意思決定とホムンクルス問題』講談社

(8) Zelazo, P. D., Anderson, J. E., Richler, J., Wallner-Allen, K., Beaumont, J. L., & Weintraub, S. (2013). NIH Toolbox Cognition Battery (CB): Measuring executive function and attention. Monographs of the Society for Research in Child Development, 78(4), 16-33.


1 2 3
執筆: