子どものがまんを科学する――実行機能の発達(2)

自己制御の発達の生物学的基盤

上越教育大学の森口佑介准教授が,子どものがまんについて実行機能の発達の観点から解説します。第2回は,近年特に注目を集めている幼児期と青年期の実行機能に関する研究を紹介します。(編集部)

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Author_MoriguchiYusuke森口佑介(もりぐち・ゆうすけ):上越教育大学大学院学校教育研究科准教授。主要著作・論文に、『おさなごころを科学する――進化する幼児観』(新曜社,2014年)、『わたしを律するわたし――子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会、2012年)など。→webサイト

子どもの脳の発達

前回,実行機能が自己制御の基盤になっていること,いくつかの要素から構成されていること,幼児期に著しく発達することを紹介しました。実行機能や自己制御は,幼児期に著しく発達しますが,その後も青年期や成人期まで長い時間をかけて発達します。最近特に注目を浴びているのが,幼児期と青年期です。そのため,これらの時期に焦点をあてて,この時期に,子どもの中でどのような変化が起こっているかを見ていきましょう。特に,生物学的基盤である脳の発達に着目しましょう。

脳について,ごく簡単に触れておきます。脳は大脳,小脳,脳幹から構成されています。大脳の表層である大脳皮質には前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉の大きく4つの部位があります。実行機能には,前頭葉や頭頂葉などから構成される神経回路が関わっていることが知られています。その中でも,前回紹介したように,実行機能はもともと前頭葉を損傷した患者の研究に基づいているため,前頭葉を中心に見ていきましょう(図1の斜線部分)。

fig2-1

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図1 脳の構造

近年,MRIという脳の構造を画像化できる装置を用いて,子どもの脳の発達プロセスが検討されています。この装置は,脳を構成する細胞(ニューロン)の細胞体が集積した部分である灰白質と,神経線維(主にニューロンの軸索という部分)から構成される白質を画像化することができます。幼児期から青年期頃までの発達的変化を検討した研究によると,白質の量については,大脳皮質のどの部位においても,2歳頃に急速に発達し,その後も年齢とともに増加していくことが示されています(1)。この増加は,脳領域間の情報伝達の効率がよくなることなどを意味します。一方で,灰白質の量は,少し変わった発達パタンを示します。灰白質は,まずその量が増加するのですが,ある時点で減少に転じます。こういうパタンを逆U字型の発達パタンといいます。灰白質の量がこのような変化をする理由については議論がなされているところですが,ニューロン同士をつなぐシナプスの量の変化が関連するという説や,ニューロンそのものが変化するという説などがあります。いずれにしても,このような変化は,効率のよい脳内ネットワークが形成されていることを意味します。

重要なのが,このような灰白質の発達時期が脳の部位によって異なるという点です。つまり,すべての脳の領域が同じようなタイミングで発達するというわけではなく,それぞれの脳の領域は異なったタイミングで発達するのです。視覚情報を処理する後頭葉や聴覚情報を処理する側頭葉は早い時期にピークを迎え,その後減少に転じるのに対して,実行機能と関わる前頭葉は相対的に遅い時期にピークを迎えてその後に減少に転じます。研究によってその時期は多少異なりますが,ある研究によると,前頭葉は幼児期において灰白質の量が増え,児童期から青年期に減少することが示唆されています(2)


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