子どものがまんを科学する――実行機能の発達(1)

実行機能とは?

現代においては、この実行機能という言葉が指すものが研究者によって異なるという難しさがあります。行動を系列化してプランを立てる能力や意思決定などのように複雑な能力を含める研究者もいれば、行動を抑制する能力(抑制機能)や行動を切り替える能力(切り替え)などのように比較的シンプルなものを含める研究者もいます。議論は続いているところですが、ここでは比較的単純な、抑制、切り替え、更新(作業記憶)の3因子のモデルを軸にして見ていきます(3)。このモデルは、近年さらに修正されていますが、発達研究では抑制が特に重視されていることや、このモデルに基づいた研究が多いことから、3因子のモデルをもとに考えていきましょう。

抑制にもさまざまな種類があるのですが、概して、その状況で産出しやすい優位な行動を制御する能力のことを指します。ここでは特に子どもを対象にした課題に触れていきます(課題の詳細については、森口(4)などを参照)。代表的なものは、白・黒課題です。この課題では、白いカードと黒いカードを使用します。子どもはこれらのカードを提示され、白いカードを提示されたら「黒」、黒いカードを提示されたら「白」と答えるように教示されます。この場合、白いカードには「白」、黒いカードには「黒」と反応しやすいという点があるわけですが、このような優位な反応を抑制しなければなりません。

切り替えは、行動やルールを切り替える能力のことを指します。子ども向けの課題として有名なルール切り替え(Dimensional Change Card Sort: DCCS)課題があります。この課題では、色と形などの2つの次元を含むカードを用います。まず、「青い星」と「緑の車」のカードを用意し、これを標的として使います(図1)。子どもは、標的とは色と形の組み合わせが異なる「青い車」と「緑の星」の分類カードを提示され、標的に向けて特定の次元で分類カードを分けるように教示されます。例えば、第1段階では、2つの次元のうち1つ(例えば、色)でカードを分類するように教示されます。この第1段階に5~6回連続で成功すると第2段階に進むことになります。第2段階では、1つ目とは異なる次元(例えば、形)で分類するように教示されます。つまり、あるルールから、別のルールに行動を切り替える能力が検討されています。

fig1-1

図1 ルール切り替え課題

最後に、作業記憶は、ある認知活動に必要な情報を一時的に保持しつつ、必要に応じて保持している情報を処理したり、他の認知活動に利用したりする過程のことを指します。子どもの作業記憶は、単純な逆唱スパン課題で検討されています。この課題では、子どもにいくつかの系列の数字を聞かせます。例えば、2、4、9、4、1、7、3などのような系列を提示します。この系列を記憶する場合は、短期記憶といわれます。作業記憶が短期記憶と違うのは、情報を単純に保持するだけではなく、処理する点です。逆唱スパン課題では、この系列を聞いた順序とは逆に再生しなければなりません。先ほどの系列の場合、3、7、1、4、9、4、2と答えるのが正答です。ここでは、数字の系列を保持しつつ、順番を逆転させるという処理も行っています。


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