尊敬されるリーダー、恐がられるリーダー――影響力と社会的地位の2つの形(3)

影響力の源はアメかムチか? それとも「アメとムチ」か?

地位の二重性から考える地位動機の男女差

地位動機に男女差がないと主張するのはホーリーだけではありません。第2回の記事では、尊敬によって高い地位につこうとする傾向について検討したアンダーソンらの研究を紹介しました。彼らは、数多くの先行研究の結果に目を通し、それを整理したのでした。そのアンダーソンらも、直観には反するが地位動機には一貫した男女差はないようだと述べています(6)

そうはいっても、暴力や強制力を使って地位を得ようとする傾向は男性の方が高いのに、地位動機の強さには男女で違いないというのは、なんだか矛盾しているように感じられます。じつはこの矛盾もヒトの社会的地位の二重性を考慮すると解消するのです。

組織行動を研究しているニコラス・ヘイズは、男女それぞれが権力のある役割と尊敬される役割にどれくらいつきたいと思っているかを調べました(7)。ヘイズの実験では、実験参加者にリーダーと部下の役で作業をしてもらいます。そのときに、半分の参加者には、この課題でのリーダー役はみなから権力があると思われると伝えます。残り半分の参加者には、この実験のリーダー役はみなから能力があると思われて尊敬されると伝えます。

その後、ヘイズは、参加者にリーダー役をどれくらいやりたいかを尋ねました(8)。すると、リーダー役には権力があるといわれたグループでは男性の方が女性よりもリーダー役をやりたいといいました。反対にリーダー役は尊敬されるといわれたグループでは女性の方が男性よりもリーダー役をやりたがったのです。

これ以外の研究にも、似たような結果を報告するものが多くあります。それらの結果からわかることは、男性は影響力を行使するためならアメもムチも使うけれど、女性はアメを使うことが多いということです。もちろん、ホーリーが指摘するように女性にもムチを使う人はいます。ですが、そこには男性の方が女性よりもムチを使いやすいという男女差があります。

今回は、アメとムチの効果について考えました。影響力を行使しようとすると、私たちは力に訴えると同時に、相手に親切にしたりします。つまり、アメとムチの両方を使うのです。実際、アメとムチの両方を使うことで、大きな影響力を行使することができるようです。男女差を見てみると、男性の方がムチを使う傾向は高いことがわかりました。しかし、だからといって女性が地位を求めないということではありません。他者から尊敬されたいという気持ちは女性でも強いのです。

今回紹介した研究では、ムチを使うことにあまりよい印象はなかったかもしれません。これは、私たちが平和な時代に住んでいることの裏返しかもしれません。次回は、フォロワーの心理について考えます。場合によっては、フォロワーは親切で尊敬できるリーダーよりも、力の強いリーダーを求めることもあるのです。

(→第4回に続く

文献・注

(1) Cheng, J. T., Tracy, J. L., Foulsham, T., Kingstone, A., & Henrich, J. (2013). Two ways to the top: Evidence that dominance and prestige are distinct yet viable avenue to social rank and influence. Journal of Personality and Social Psychology, 104, 103-125. http://dx.doi.org/10.1037/a0030398

(2) Hawley, P. H. (2014). The duality of human nature: Coercion and prosociality in youths’ hierarchy ascension and social success. Current Directions in Psychological Science, 23, 433-438. http://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0963721414548417
Hawley, P. H. (2015). Social dominance in childhood and its evolutionary underpinnings: Why it matters and what we can do. Pediatrics, 135(Supplement 2), S31-S38. http://dx.doi.org/10.1542/peds.2014-3549D

(3) Hawley, P. H., Little, T. D., & Card, N. A. (2008). The myth of the alpha male: A new look at dominance-related beliefs and behaviors among adolescent males and females. International Journal of Behavioral Development, 32, 76-88. http://dx.doi.org/10.1177/0165025407084054

(4) ギネスブックの記録ページ
Most prolific mother ever

(5) Betzig, L. L. (1986). Despotism and differential reproduction: A Darwinian view of history. New York: Aldine.

(6) Anderson, C., Hildreth, J. A. D., & Howland, L. (2015). Is the desire for status a fundamental human motive? A review of the empirical literature. Psychological Bulletin, 141, 574-601. http://dx.doi.org/10.1037/a0038781

(7) Hays, N. A. (2013). Fear and loving in social hierarchy: Sex differences in preferences for power and status. Journal of Experimental Social Psychology, 49, 1130-1136. http://dx.doi.org/10.1016/j.jesp.2013.08.007

(8)  ヘイズの実験について詳しく知りたい方へ
ここで紹介しているのは、ヘイズの論文で報告されている研究のうち2番目のものです。ヘイズは、高い地位を求める傾向を測るためにかなり工夫しています。本文中で説明すると長くなるので、測定の仕方についてここで説明します。
ヘイズは、参加者にリーダー役を“購入する”ならいくら支払ってもよいかを尋ねました。といっても、本当にお金を払うのではなく、課題の中でヒントをもらうためのポイントをお金の代わりに使いました。リーダー役になるために、何ポイント支払う気があるのかを尋ねたのです。
もし、その人がリーダー役になれば、そこで支払ったポイントは課題で使えなくなります。課題でうまくやるためにはポイントを節約しておいた方がよいのです。つまり、 無駄遣いしない方がよいという意味で、お金と同じように考えることができるのです。ですから、リーダー役になるために支払うポイントは、その人がリーダー役をやることにどれくらい価値をおいているかを反映しているはずです。
実験の結果をこの測定方法に即して言い直すと次のようになります。リーダー役には権力があると言われたグループでは、男性の方が女性よりもたくさんのポイントを使ってリーダーになりたいと言いました。ところが、 リーダー役は尊敬されると言われたグループでは、女性の方がリーダーになるためにたくさんのポイントを使うと言ったのです。


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