尊敬されるリーダー、恐がられるリーダー――影響力と社会的地位の2つの形(3)

影響力の源はアメかムチか? それとも「アメとムチ」か?

影響力を行使するにはアメとムチの両方が必要か?

チェンらの研究からは、2通りのやり方で影響力を行使できることがわかりました。ところで、影響力を得るためにアメを使う人は、それと一緒にムチも使うのでしょうか? それとも、アメを使って影響力を得る人、ムチを使って影響力を得る人という2種類の人たちがいるのでしょうか?

チェンらの実験では、尊敬される程度と支配性には相関関係がありませんでした。これは、グループのみんなから尊敬されているからといって、その人の支配性が高いか低いかはわからないということです。逆もしかりで、ある人の支配性が高いとしても、その人が尊敬されているかどうかわかりません。

先の疑問に戻ってこのことを言い換えると、世の中には尊敬もされるし支配性の高い人(アメもムチも使う人)、尊敬されていて支配性の低い人(アメだけ使う人)、尊敬されていないけれど支配性の高い人(ムチだけ使う人)、尊敬されていなくて支配性の低い人(アメもムチも使わない人)がいるということです。

ちょっと意外に思われるかもしれません。しかし、この4種類の人たちがいることは、すでに発達心理学者のパトリシア・ホーリーによって報告されていたことでした(2)。ホーリーは子どもたちの暴力性などいわゆる問題行動といわれる行動傾向について研究をしていました。

ホーリーの研究チームは、幼児や子どもの行動を観察することで、子どもたちがどのようにして同じ年頃のグループで影響力をもつようになるかを調べました。チェンらの実験結果から予想できるように、影響力を獲得するやり方には2つの方略がありました。

ホーリーらが見つけた方略の1つは、相手を助けてあげたり、アドバイスをしてあげたりという向社会的な方略でした。向社会的とは反社会的の反対の意味をもつ心理学の専門用語です。簡単にいえば、社会的に望ましい方略ということです。ホーリーらは、向社会的方略に加えて、暴力に訴えたりして無理やりいうことを聞かせようとする、強制的な方略があることも発見しました。

しかし、それ以上にホーリーらの研究のユニークな点は、これらの2つの方略の使い方によって子どもたちを4種類に分類したことにあります。向社会的な方略を使って他の子どもに影響を与えようとする向社会的影響者、強制によって影響を与えようとする強制的影響者、両方を使う二重方略影響者、どちらも使わない非影響者です。

ホーリーらによると、向社会的影響者は他の子どもたちと助け合うことで目標を達成しようとします。また、このタイプの子どもたちは思いやりがあり、まじめです(第2回で紹介した正規の誇り感情を経験しやすい人たちと同じですね)。それに対して、強制的影響者は暴力によって目的を達成しようとします。衝動性の高さもこのタイプの子どもたちの特徴でした。

二重方略影響者は、4つのタイプの中でも特に強い影響力をもっていて、社会的スキルも高いのですが、同時に友達に対して攻撃的なところもありました。また、悪いことをしても罪悪感をあまり経験していないようなところがあると担当の先生から見なされていました。また、地位を失ったり、他の子たちから拒否されたりすることへの不安が高い傾向もありました。

最後に非影響者ですが、この子たちは競争心や攻撃性が低く、友達も少ない傾向にありました。また、非影響者の子どもたちはいじめのターゲットにもなりやすいのです。この子たちはストレスのレベルも高い傾向がありました。

ホーリーらの研究によれば、アメとムチを使う子どもたちはたしかに影響力を発揮していました。その意味で、アメとムチを使う方が影響力は強くなるといえそうです。ですが、二重方略影響者には不安が高い傾向もありました。結局、ムチ(強制的な方略)は、資源を獲得・保持するという意味ではある程度有効なのですが、子ども同士のいざこざに関わってしまいやすくなる面があり、必ずしもよいやり方とはいえないようです。

このことから、私たちは第2回の記事での結論に立ち戻ります。尊敬により地位を求める人たちは幸福感が高く、力により地位を求める人たちは暴力傾向が高く、精神疾患のリスクも抱えていました。ホーリーらもムチは使わずにアメだけを使う向社会的影響者のやり方を社会的スキルの「よい」使い方だと考えています。


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