内部告発と組織不正の心理(1)

内部申告者への風当たりの強さ

――社長たちは内部申告をどう受け止めるのでしょうか。

社長は受け入れられません。先ほどあげた『内部告発のマネジメント』にも階層別に,内部申告する人への態度の調査結果を載せていますが,社長のすぐ下の役員クラスはまあまあポジティブですが,社長は大嫌いで,組織を壊す人だと認識しています。本当であってほしくないということもあるとは思いますが,最初から申告した人を敵だと思っています(図1)。

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図1 職位による内部申告への否定的態度の相違(4)

――社長は自分の組織にそんなことが起きるはずがないと思っているのでしょうか。

どうでしょうね。仕事をしている人なら,そういうことが起きうるとわかると思うのですが。何年も社長をしていると,気持ちの中に油断が生じるのではないかと思います。人間は衰えますからね。

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――内部申告した人へのまわりからの風当たりの強さについて,この本にも書かれていました。

日本はそうした風当たりが強いですね。家族関係や配偶者との関係が壊れたりもします。内部申告が直接の原因かどうかはわからないですが,その後に昇進が止まって30年間働くこともあるわけです。給料も上がらず,田舎だとまわりの人にも「あの人は万年係長だ」と知られたりします。子どもも幼稚園や学校に通いますし,家族はそういう社会に生きていますから。夫婦関係が壊れることはあります。

――内部申告をした人は後悔することもあるのでしょうか。

アンケートのデータを見ると,後悔していないように出てきます。しかし,私は後悔をしているところもあると思います。後悔しているから,そうしたアンケートに,強く「後悔していない」と答えるのではないかと。でもそれは自然なことだと思います。

『内部告発のマネジメント』は「組織の社会技術シリーズ」(新曜社)の1冊ですが,このシリーズでは会議,属人思考,内部申告,職業的使命感のテーマを不祥事防止の段階として取り上げていて,その中で内部申告は最後の砦です。組織を運営する人間は,会議,組織風土,職業的使命感などで不祥事が防止されるようにするべきで,内部告発されるような事態が起こらないようにすべきなのです。そこに至る前に,気づく仕組みをつくらなければいけない。

社長のもとに,本当らしい内部申告が出てきたときには,まずは「しまった,これまでの措置が悪かった」と思うべきなのです。社員たちがその会社の中で仕事を失うリスクを感じずに,そうしたことが言える仕組みをつくるべきなのです。

第2回に続く

文献・注

(1)  岡本浩一・王晋民・本田-ハワード素子 (2006).『内部告発のマネジメント――コンプライアンスの社会技術』新曜社

(2)  宮本聡介・岡本浩一 (2003).「東京電力検査報告隠蔽事件に見る社会的フェイル・セーフ・システムの課題」岡本浩一・今野祐之編『リスク・マネジメントの心理学――事故・事件から学ぶ』新曜社,pp. 291-320.

(3)  内部申告のあと,串岡氏はトナミ運輸に30年近く研修所での仕事を命じられた。2002年に同社を相手取り,損害賠償と謝罪を求める裁判を起こし,地裁は1365万円の支払いを命じる判決を下した(控訴審で上乗せした金額の賠償金を串岡氏に支払うことで和解)。

(4)  (1)を参照。


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