TEA(複線径路等至性アプローチ)の過去・現在・未来――文化と時間・プロセスをどのように探究するか?(3)

渡邊:

『質的心理学研究』に載っているような論文でも,結局のところ面白い論文はケースが面白い論文だよね。分析なんてどうでもよくてさ。GTAなんかやるとかえってわからなくなるしね。『質的心理学研究』で俺が採択にした研究って,全部ケースが面白いやつだよ。俺,『質的心理学研究』の査読で3回くらい泣いたからね。これはすごい話だなと。すごい話を記述してきただけで,もう方法なんかどうでもいいわけよ。たださ,他の査読者はそう思わないんだよ。特に看護の先生たちは全然そう思わないわけ。これはGTAの使い方としては正しくないのではないか,とか,そういうことを気にしているわけさ。

尾見:

その看護の人たちの方が心理学者っぽいな。渡邊さんは心理学者っぽくないってことだよね。

渡邊:

看護の人たちは心理学者より心理学になっちゃっているということだよ。お医者さんに対抗するために。医学の世界で看護学の成果が認められるためには,医学より方法的に厳密でなくてはいけないわけじゃない。そこで彼らが飛びついたのが質的心理学の質的方法だよね。

サトウ:

「日本質的心理学会は名前から心理学を外そう,その方がいろんな分野の人が集まりやすいのではないか」と言っていたこともあるんだけれど,「やっぱり心理学がついているからみんな来るんだよ」という話に落ち着いた。他分野のうち心理学に関心がある人が集まるのが,日本質的心理学会なんだ,それはそれで価値がある,と。

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渡邊:

特に看護の人たちにとっては心理学っていうのはすごく大事で,心理学のジャーナルに載っているから評価されるわけでしょ。

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サトウ:

統計と一緒なんだよ。心理学やってる人が統計学会で発表すると「何かすげーっ」て言われるのと一緒なんだよ(笑)。心理学の人たちは方法的に厳密だっていうイメージがあるから,みんな質的心理学会に来てくれるわけだ。一方で敷居の高さを感じる人もいるみたい。最近「質的心理学会,すごく敷居が高かったんだけれど,行ってみたらみんなフレンドリーで驚いた」というツイートを見たことがある。人間的にも厳格な人たちがやっていると思われていて。でもそんなことないよね。

尾見:

誰がやっているかにもよるんじゃない。厳格な心理学者もいるでしょ。

渡邊:

厳格ということで言うとさ,どういうTEM図をどう描くかということはいいんだけれど,四角の角を丸くするか角にするとかは決めた方がいいんじゃないかとか,むしろそっちが気になる。最低限のフォーマットが決まっていてほしい(笑)。

尾見:

等至性のところは二重括弧にするとか,フォントもゴシックじゃなきゃいけないとか。

渡邊:

APAスタイル(8)みたいな感じでさ。TEM図の渡邊スタイルを提唱して,みんなその通りに描いてとか。

サトウ:

気になるんだったらそういう提案をしたらいいじゃん。論文を書いてよ。TEMの渡邊スタイルの提案とか。

渡邊:

複数のTEM図を見た時に,最初の頃は,これは丸でこれは四角というのがあったわけで,すごくわかりやすいじゃない。最近のだと,どれが何だかわからない。たぶん,これをつくったソフトでは丸がつくりにくいんだろうね。

尾見:

それぞれの人の好みじゃないの?

サトウ:

好みというか,ソフトの使い方の技術がわからなくて,ソフトに使われちゃってる人がいる気はする。

渡邊:

TEM図作成ソフトなんていうのをつくって,出したらいいじゃないか。

サトウ:

PACはあるらしいじゃないの。PACアシストっていうのが。

渡邊:

そういうことも総合的に進めているところが内藤さんのすごいところなのよ。

第4回に続く

Tatsuya Sato著
ちとせプレス (2017/3/31)

人はどう生きているか? 時間とプロセスを扱う新しい研究アプローチ,TEA(複線径路等至性アプローチ)。問題意識はどこにあるのか。理論的背景はいかなるものか。研究をどのように実践すればよいのか。心理学の新機軸を切り拓く,珠玉の英語論文集!

文献・注

(1) REPグリッド。ケリーのパーソナル・コンストラクト理論をもとにしたアセスメント法。個人が他者や自身のパーソナリティを記述するために用いる個人的な概念(パーソナル・コンストラクト)を抽出し,それによって描かれる他者や自身のパーソナリティの姿を捉えようとする。これを実用的に発展させたのが内藤のPAC(個人的態度構造)分析である。

(2) 弦間亮・サトウタツヤ・水月昭道 (2008).「学生相談室への来談・非来談の葛藤――KJ法による大学生の語りの検討」『立命館人間科学研究』17, 47-59.

(3) 宮台真司。社会学者。首都大学東京教授。

(4) ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman: 1934- )。プリンストン大学名誉教授。プロスペクト理論に関するエイモス・トヴァスキーとの共同研究で著名。ノーベル経済学賞を受賞。

(5) ジョージ・スパーリング(George Sperling: 1934-)。記憶研究の心理学者。

(6) 蘭信三。社会学者。上智大学教授。

(7) 佐藤郁哉。社会学者。同志社大学教授。主著に『暴走族のエスノグラフィー――モードの叛乱と文化の呪縛』

(8) APAスタイルとは,アメリカ心理学会(APA)が定めた学術論文の執筆様式。


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