ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(2)
優れた他者との比較
Posted by Chitose Press | On 2017年05月01日 | In サイナビ!, 連載あなたは自分に自信があるでしょうか? それとも自信がないでしょうか? 勉強や仕事などのパフォーマンスが,自分のもつ「ものの見方」の影響をどのように受けるのか,外山美樹・筑波大学准教授がさまざまな研究知見を紹介します。第2回は自分のまわりの人と意図的に比較する際の影響について見ていきます。(編集部)
外山美樹(とやま・みき):筑波大学人間系准教授。主著に『行動を起こし,持続する力――モチベーションの心理学』(新曜社,2011年),「特性的楽観・悲観性が出来事の重要性を調整変数としてコーピング方略に及ぼす影響」(『心理学研究』85, 257-265,2014年),「中学生の学業成績の向上における社会的比較と学業コンピテンスの影響――遂行比較と学習比較」(『教育心理学研究』55, 72-81,2007年)など。→Webサイト
前回紹介しました「井の中の蛙効果」は,自分が置かれている身のまわりの集団と自分を比較することによって生じる現象ですが,第2回は,自分の身のまわりの個人と自分を比較することがパフォーマンスに及ぼす影響について見ていくことにします。
強制的な比較と意図的な比較
前回紹介しました「井の中の蛙効果」は,学業レベルの高い集団に所属すると,日々優秀な人たちとの比較にさらされるため,“自分は勉強ができない”といった否定的な学業的自己概念を形成しやすく,その結果,パフォーマンスが低下しやすいという現象のことでした。
こうした現象は,他者との比較の結果生じるものですが,この場合の“他者との比較”は,本人の意図にはよらない,いわば強制的な(無意識的な)ものであると考えられます。つまり,自分の身のまわりにいる友人たちと意図的に比較しようと思って比較した結果ではなく,それが常日頃接している友人たちだから,知らず知らずのうちに比較させられた結果ともいえるのです。
私たちは,意図的に比較しようと思わなくても,身近にいる人とは否応なしに比較する(比較させられる)ものです。そのように考えるならば,「井の中の蛙効果」は,それが常日頃所属している集団だからという理由で,なかば強制的に比較させられた結果であるといえます。
では,そのような強制的な(無意識的な)比較ではなくて,さまざまな目標に応じて,人が意図的に行っている比較――例えば,優れた学業成績をとっている友人のように自分もなりたいと思って,その優れた友人と積極的に比較する――は,パフォーマンスにどのような影響を与えるのでしょうか。こうした意図的な比較と強制的な(無意識的な)比較とでは,その意味合いがまったく異なってくるでしょう。
意図的な比較がパフォーマンスに及ぼす影響
そもそも,私たちは,どういった他者と好んで比較をするのでしょうか。心理学者のレオン・フェスティンガー(1)は,比較する相手としては自分と類似した他者が好まれるが,能力を比較するときに限っては,自分の能力を向上させ,他者をしのごうとする圧力(このことを“向上性の圧力”といいます)も作用するので,自分の能力よりもほんのわずかに優れている他者との比較を好む,と述べています。
また,自分よりも優れた他者と比較する人は,その優れた他者をしのごうとする強い向上性のために比較することが多いため,モチベーションが高まり,その結果,自身のパフォーマンスが向上しやすい傾向にあることが示されています(2)。
日本では,中学生を対象にした研究(3)において,中学生は自分よりも多少成績が良い友人と自分の成績を比較している傾向にあることが示されています。この研究では,中学生に,常日頃,学業成績を比較している友人の名前を尋ねました。そして,その中学生と友人の実際の学業成績を見たところ,比較している友人の学業成績の方がわずかに高かったのです。
さらに,自分よりも成績が優れている友人と比較している中学生は,自身の成績が向上しやすいことがわかりました。
優れた友人を良いモデル(手本)として,自分もその友人のようになりたいと奮起し,頑張り続けることができ,その結果として自身のパフォーマンスが向上するのでしょう。このように,優れた他者との比較は,いろいろな行動におけるモチベーションの役割を果たすと考えられています。