ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(1)

まわりの中で形成される自己概念

あなたは自分に自信があるでしょうか? それとも自信がないでしょうか? 勉強や仕事などのパフォーマンスが,自分のもつ「ものの見方」の影響をどのように受けるのか,外山美樹・筑波大学准教授がさまざまな研究知見を紹介します。第1回は自分の置かれている集団の影響を受ける,「井の中の蛙効果」についてです。(編集部)

Author_toyamamiki外山美樹(とやま・みき):筑波大学人間系准教授。主著に『行動を起こし,持続する力――モチベーションの心理学』(新曜社,2011年),「特性的楽観・悲観性が出来事の重要性を調整変数としてコーピング方略に及ぼす影響」(『心理学研究』85, 257-265,2014年),「中学生の学業成績の向上における社会的比較と学業コンピテンスの影響――遂行比較と学習比較」(『教育心理学研究』55, 72-81,2007年)など。→Webサイト

この連載では,ものの見方がパフォーマンスをどのように変えるのか,ということについて,研究を紹介していきます。第1回は,自分の見方(自己概念)がどのように形成され,それがパフォーマンスをどのように変えるのかを,心理学の「井の中の蛙効果」から紹介します。

井の中の蛙効果

「鶏口となるも,牛後となるなかれ」という格言をご存じでしょうか。これは,一般的には,牛は鶏よりも秀でているという観念から,“優れた集団の後ろになるよりは,弱小集団でもトップになった方がよい”というたとえになります。

心理学でも,これと似た現象があります。それは「井の中の蛙効果」と呼ばれています。

少しわかりにくいので,具体的な例を交えながら説明していくことにします。

ここに,AさんとBさんがいるとします(図1参照)。AさんとBさんは,高校入学直前まではほとんど同じ学業成績でした。ところが,Aさんは学業レベルの高い進学校に入学したのに対して,Bさんはたまたま高校受験で失敗してしまい,Aさんとは違った,学業レベルがそれほど高くはない高校に入学することになりました。この時点では,Aさんの方が良かったように思えるでしょう。

さて,数カ月後(あるいは数年後),この2人はどうなったのでしょうか?

Aさんは,良くできる生徒ばかりの高校の中で,優秀な友達と比較することで,否定的な学業的自己概念を形成し,勉強に対するモチベーションを失い,最終的には悪い成績しか収めることができなかったのです。

一方のBさんは,あまりできない生徒ばかりの高校の中で,自分よりも学業レベルの低い生徒たちとの比較のために,肯定的な学業的自己概念を形成し,それによって勉強に対するモチベーションが向上し,最終的には,Aさんが受けた同じテスト(全国統一テスト)で,Aさんよりも高い成績を収めることになったのです。

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図1 「井の中の蛙効果」の具体例

このような,学業レベルの高い集団に属すると,否定的な学業的自己概念を形成しやすく,逆に,学業レベルの低い集団に属すると,肯定的な学業的自己概念を形成しやすいという現象は,心理学では,“大きな池の小さな蛙になるよりも,小さな池の大きな蛙になった方が自分に肯定的になる”という意味を込めて,「井の中の蛙効果」と呼ばれています。冒頭で紹介しました「鶏口となるも,牛後となるなかれ」という格言によく似ています。

「井の中の蛙(大海を知らず)」という格言もありますが,こちらは,狭い世界に閉じこもっている井戸の中の蛙は,広い世界があることを知らないで,いばったり自説が正しいと信じ込んでいたりすることを意味しており,心理学で用いられる「井の中の蛙効果」とは少しニュアンスが異なっています。

心理学では,個人の学業レベルをコントロール(統制)した場合,所属している学校(クラス)の学業レベルは個人の学業的自己概念にネガティブな影響を与えるという現象のことを「井の中の蛙効果」といい(1),これを図式で表すと,図2のようになります。

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図2 「井の中の蛙効果のモデル」(2)

こうした現象がいろいろな場面に一貫して見られることが,心理学のさまざまな研究を通して確認されています(3)


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