ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(1)

まわりの中で形成される自己概念

井の中の蛙効果が及ぼす影響

では,学業レベルの高い学校やクラスといった優れた人たちの集団に所属したために否定的な学業的自己概念を形成するという「井の中の蛙効果」を被った人には,どのような影響が生じるのでしょうか。

先にも少し述べましたが,肯定的な学業的自己概念は他の望ましい心理的,行動的結果を促進する重要な要因です。つまり,学業レベルの高い集団(学校やクラス)に所属することで否定的な学業的自己概念を形成すると,学業に対するモチベーションが低下し,その結果,学業成績が低下する傾向にあるということになります。

例えば,ある研究(5)によりますと,入学した高校の学業レベルが高くなればなるほど,高校2年生のときと3年生のときの学業的自己概念が低くなること,学業や職業に関するモチベーションが低くなること,学業に対する努力をしなくなること,そしてテスト(標準化されたテスト)の成績が悪くなることが示されています。

また,こうしたレベルの高い高校に入学することのネガティブな影響は,高校時代においてのみならず,大学2年生のときにおける学業に対する努力やモチベーション,授業の出席率などにおいても継続的に見られることが明らかになっています。

4年間追跡した研究(6)でも,学業レベルの高い高校に入学することのネガティブな影響は長期間継続すること,そして,時を経るごとにそのネガティブな影響が強まることがわかっています。

このように,さまざまな側面に長期にわたって,「井の中の蛙効果」が影響を及ぼすことが確認されています。

心理学者のマーシュは,「子どもが小さい頃に抱く否定的な学業的自己概念――つまり,自分は周りと比べて勉強ができないのだと思うこと――は,学業レベルの高い学校に行くことで得られる利益以上に有害となる」と述べています(7)。否定的な学業的自己概念を形成することで,学業や職業のモチベーションが低下し,その結果,パフォーマンスの低下を導くからです。

学業レベルの高い学校に行くことによって,学業に関する自己概念のみならず,一般的な自己概念(自尊感情)や社会的な自己概念(例えば,「自分には友達がたくさんいる」「自分は人に好かれている」といった人間関係における自己概念)までも低下することを示す研究(8)もあります。

学業レベルの高い学校に行くことには,利益と同様に(あるいは利益以上に),さまざまな弊害があることを,私たちは知っておかなければいけないでしょう。

今回見てきましたように,能力的には同様の人であっても,自分を取り巻くまわりの人たち(正確には,自己評価する際に用いる準拠枠)によって,私たちは異なった自分の見方(自己概念)を形成します。そして,どのような自己概念を形成するかによって,パフォーマンスが変わるのです。

井の中の蛙効果は,自分が置かれている身のまわりの集団・・と自分を比較することによって生じる現象ですが,次回は,優れたあるいは劣った個人・・と比較することがパフォーマンスに及ぼす影響について紹介することにします。

→第2回に続く(近日掲載予定)

文献・注

(1) Marsh, H. W. (1987). The big-fish-little-pond effect on academic self-concept. Journal of Educational Psychology, 79, 280-295.

(2) Skaalvik, E. M., & Skaalvik, S. (2002). Internal and external frames of reference for academic self-concept. Educational Psychologist, 37, 233-244.

(3) 外山美樹 (2008).「教室場面における学業的自己概念――井の中の蛙効果について」『教育心理学研究』56, 560-574.

(4) 外山美樹 (2004).「中学生の学業成績と学業コンピテンスの関係に及ぼす友人の影響」『心理学研究』75, 246-253.

(5) Marsh, H. W. (1991). Failure of high-ability high schools to deliver academic benefits commensurate with their students’ ability levels. American Educational Research Journal, 28, 445-480.

(6) Marsh, H. W., Kong, C.-K., & Hau, K.-T. (2000). Longitudinal multilevel models of the big-fish-little-pond effect on academic self-concept: Counterbalancing contrast and reflected-glory effects in Hong Kong schools. Journal of Personality and Social Psychology, 78, 337-349.

(7) (5)を参照。

(8) Trancy, D. K., Marsh, H. W., & Craven, R. G. (2003). Self-concepts of preadolescent students with mild intellectual disabilities: Issues of measurement and educational placement. In H. W. Marsh, R. G. Graven & D. M. McInerney (Eds.), International advances in self research (Vol.1., pp. 203-230). Greenwich, CT: Information Age.


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