ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(1)
まわりの中で形成される自己概念
Posted by Chitose Press | On 2017年04月04日 | In サイナビ!, 連載自己概念とは
ここで,学業的自己概念という心理学の専門用語が出てきましたので,少し説明しておきます。
まず,自己概念とは“自分は走るのが遅い”“自分は楽観的である”“自分は勉強が得意である”……といったように,自己に関する記述的側面のことです。私たちは,さまざまな自己概念を抱いていますが,その中でも,“自分は勉強が得意である”といった学業に関する自己概念のことを学業的自己概念といいます。
この学業的自己概念は,モチベーションと大きな関係があります。それは,“自分は勉強ができる”といった肯定的な学業的自己概念を抱いているとモチベーションが高まり,“自分は勉強ができない”といった否定的な学業的自己概念を抱いていると,自分がいくら頑張っても無駄だと思い,モチベーションが低下するからです。
このように,肯定的な学業的自己概念を抱いていると,他の望ましい心理的,行動的結果(モチベーションや学業達成など)を促進することがわかっています。そこで,いかに肯定的な学業的自己概念を形成するのかが重要になってくるのです。
自己概念はどのように形成されるのか?
それでは,この学業的自己概念はどのように形成されるのでしょうか?
まずは,客観的な学業達成(学業成績など)が影響することが考えられます。学業成績の良い人が“自分は勉強ができる”という学業的自己概念を抱き,学業成績の悪い人が“自分は勉強ができない”という学業的自己概念を抱くのは,当然のことのように思えます。しかし,この客観的な学業達成が学業的自己概念の形成に及ぼす影響は,それほど強くないことがわかっています(4)。
つまり,仮にまったく同じ能力であったとしても,ある人は“自分は勉強ができる”という肯定的な自己概念を形成し,ある人は“自分は勉強ができない”という否定的な自己概念を形成することが多いのです。
いったい,それはなぜでしょうか?その答えは,先ほど紹介しました「井の中の蛙効果」の中に隠されています。
自己概念の形成には,私たちを取り巻くまわりの人の影響を多分に受けます。というのは,私たちはたった1人で社会から孤立して生きているわけではありません。私たちはさまざまな社会的相互作用の中で,有形無形の影響を受け,そしていろいろな人と比較をしながら,自分自身を評価,判断し,自己概念を形成していきます。
例えば,学校のテストで80点をとったとしても,まわりの人たちが90点以上をとっていた場合には,否定的な学業的自己概念を形成しやすくなり,まわりの人たちが50点くらいしかとっていない場合には,肯定的な学業的自己概念を形成しやすくなるでしょう。このように,同じ80点という点数であったとしても,肯定的な学業的自己概念を形成したり,否定的な学業的自己概念を形成したりするのは,私たちの学業的自己概念が,周囲の他者との関係の中で形づくられるものであることを物語っています。
冒頭で紹介した例の場合ですと,Aさんにとってはまわりの優れた生徒たちが,Bさんにとっては自分よりもできない生徒たちが,自己評価の判断基準(心理学の専門用語では「準拠枠」といいます)となったために,Aさんは否定的な学業的自己概念を形成し,逆にBさんは肯定的な学業的自己概念を形成したのです。