10月 みあやまり――擬似相関(2)

『大学生ミライの因果関係の探究』より

「因果関係があるかないかを決めるのは,予想以上に難しかった」。心理学科のミライが統計にまつわる出来事に遭遇するキャンパスライフ・ストーリー。前回,アルバイト先で困っている話をあおいから聞いたミライは,社会心理学者の江熊先生の研究室を訪れました。(編集部)

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擬似相関

「アイスクリーム,食べるかな」

そう言うと,先生は研究室の片隅にある冷蔵庫の中からカップ入りのアイスクリームを出した。

「昨日おみやげにもらったアイスクリームだよ」

少しお腹が空いていたので,ありがたくいただいた。外は秋の気配だけれど,部屋の中は暖かく,冷たいアイスクリームが美味しく感じられる。

先生は話を続ける。

「第3の要因によって,擬似的に相関が生じることがあるんだ」

擬似的……似ているけど違う,ということだろうか。

「例えば,アイスクリームの売り上げと,水死者数との関連というのを考えてみてほしいな。どうだろう,関連があると思うかな」

そんなの,考えるまでもないと思った。

「ないと思います」

私はすぐにそう答えた。すると先生は言った。

「でも,実際に,毎月の統計をとると,明らかにアイスクリームの売り上げが高いときに水死者数が多いんだ」

私は驚いた。本当にそういうデータがあるの?

「そうなのですか」

「うん。実際にそうなる。だけど,そのデータに基づいて,「水死者を減らすためにアイスクリームの販売を自粛せよ」と言ったらどうなる? アイスクリーム業者が「売り上げを伸ばすために,危険な水場をたくさんつくって水死者を増やすべきだ」と言い始めたら?」

そんなの,おかしいと思う。

「正しいとは思えません」

そんなの,絶対に正しいとは思えない。

fig10-1

「僕もそう思う」

あれ? 先生もそう思うんだ。少しホッとした。先生は続ける。

「でも,「データ上は,実際に関連があるじゃないか」と反論されたらどうしようね」

「つまり,データが誤っているということでしょうか」

私は言った。先生はうなずきいて,マグカップに残った冷めたコーヒーを飲み干した。そして続ける。

「データの集め方には問題がないとしよう。アイスクリームの売り上げも水死者数も,どちらも信用できるデータだ」

データそのものには,疑問はないということか。

「それでも,どこかに誤りがあるということでしょうか」

「たとえ,データそのものが信用できたとしてもね。そうだとしても,言いたい結論の証拠になりえない,ということがある」

この例だと,何が問題になるのだろう? 私は正直に尋ねてみた。


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