10月 みあやまり――擬似相関(1)

『大学生ミライの因果関係の探究』より

「因果関係があるかないかを決めるのは,予想以上に難しかった」。心理学科のミライが統計にまつわる出来事に遭遇するキャンパスライフ・ストーリー。友人のあおいが最近アルバイトを始めたようですが,そこの店長が変なことを言っているようで……。(編集部)

秋学期が始まって数週間が過ぎた。もう10月も半ばだ。あんなに暑かったのに,今朝は肌寒いくらい。

秋学期,私はあおいが島の宿で先輩から聞いた情報を参考にしながら,春学期よりも余裕のある履修計画を立てた。

あおいは,そんな私のスケジュールを見て,「いいね」と言いながら,結局ほとんど同じ科目を履修した。

今日もいつものように,あおいに倉田君とカフェテリアで昼食。

昼食の時間はいつも,とりとめもない話に終始する。今日は,あおいのアルバイトの話になった。

「そのバイト,たしか夏休みが終わってから始めたんだよね」

「そうそう。そうなのよ。家を手伝う以外にも働いてみようと思ってさ」

あおいの家は,喫茶店をやっている。土曜や日曜はアルバイトとして手伝いをすることもあると聞いている。

「こっちは夜中のバイトで大変なんだけど,年末までに少しは自分で稼がなくちゃね」

あおいが言う。

「年末までに稼いで,何するつもりだよ」

倉田君が言う。2人はつき合っている。年末年始といえば,やはりクリスマスに初詣。カップルにとっては大事な季節,なのかな。

とにかく,あおいは幹線道路沿いのインターネット・カフェで,夜間の店員のアルバイトを始めていた。

「ところで最近,店長が変なことを言い始めてさ」

あおいが言う。

「変なって,どんなこと」

倉田君が尋ねる。

「「大学の勉強ができない学生ほど,売り上げを伸ばす」って言うの」

勉強ができない学生ほど,売り上げを伸ばす。私は,心の中で反復してみた。いまいち,すっと理解できない。

「何それ」

と倉田君。私も,「何だか変ね」と言う。

「それでさ,「成績の悪いバイトから優先してアルバイトの予定シフトを組む」なんて言うの」

本当に変なの。

「どうして?」

私は言った。本当にわからない。

「要は,私たちに「勉強するな」って言うわけだよ」

ますます変だ。

「めちゃくちゃね」

「そうなんだよ。だから,私たちアルバイト仲間が困っているの」

あおいの話によると,アルバイト先の店長が「大学の勉強の出来と売り上げとの間には負の関連がある」ということを,最近になって言い始めたのだという。どうも,何かのウェブページに書かれていたことを,信じてしまったらしい。

「勉強の出来と,売り上げの間になんて,何も関連はないと思うけどなあ」


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