社会心理学の学際性とは(4)

社会心理学をバックグラウンドにして他のさまざまな学問分野の研究者と共同して研究をされてきた木下冨雄京都大学名誉教授と日本社会心理学会第57回大会準備委員長・三浦麻子関西学院大学教授に,社会心理学の学際性に関してお話を伺いました。最終回の話題は大会で学際性をテーマに据えたそのねらいと,若い研究者へのメッセージです。(編集部)

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Author_KinoshitaTomio木下冨雄(きのした・とみお):京都大学名誉教授。

Author_MiuraAsako三浦麻子(みうら・あさこ):関西学院大学教授。

他分野の研究者との交流

――三浦先生にお聞きしますが,今回,学際性をメインテーマにされたそのねらいはどこにあるのでしょうか。

三浦:

社会心理学は社会現象にきわめて近い人間の行動を扱っているわけなので,どんな学問とでも接点があると思っているんです。共通性をもたない学問はないなと思っているので,なるべくいろいろな方に来てほしいわけです。例えば今回は政治学と比較認知科学の人と実際にやっている研究の話をしてもらって,対論をする場をつくりました。関連した人たちは関心をもつだろうし,それ以外の人たちにも社会心理学はそういう人たちと一緒にやっている学問なんだということがわかっていただけるかと思います。あと,社会心理学者が発言できることがいろいろあるなあと思うのですが,普通の社会心理学者はあまり発言してくれないので,そういうのも無理くりにでもつくることができたらいいなと思います。

私も自分自身がやりたいことをやろうと思っていたら結果的に情報学や政治学や経済学の人と一緒にやっているだけなんですが,学際性をスローガンとして出して,他分野の人が来てくれる機会とか来てくれるようなことをわれわれはやっているんだということを,若い人に気づいてもらうことができればいいなと思っています。

木下:

いまの話を補足すると,日本社会心理学会が発足したときには会員に政治学者や法学者,社会学者など周辺分野の方たちが多くいたんです。前に名を挙げた三宅一郎君も会員でした。ところが学会が大きくなってくると,学問が内部的に専門化・細分化して異分野の方が抜けていかれるのですね。その意味では,日本社会心理学会は昔の方がよほど学際的でした。

つまり学問が発展するとタコツボ化が始まって,扱う領域が狭く深くなるんです。深くなる方はいいんだけれど,狭くなってしまうと,結果的に全体のシステムが見えなくなってくる。そうすると,今度はそれに対する反省やアンチテーゼとして総合とか学際という声が復活してくる。そういうことの繰り返しなんです日本社会心理学会も。これまで三度くらい繰り返しの波があったのじゃないかなあ。

もう1つ,これは社会心理学から見た話ですが,異なる学問分野から日本社会心理学会に近づいてくる研究者は,本家の学会だけでは満たされないから来られているわけです。そして異分野に関心のある人は,もともとポテンシャルの高い人が多いわけです。だから大事にしないといけない。お互いにそういう関係であることを銘記すべきでしょう。


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