社会心理学の学際性とは(3)

社会心理学をバックグラウンドにして他のさまざまな学問分野の研究者と共同して研究をされてきた木下冨雄京都大学名誉教授と日本社会心理学会第57回大会準備委員長・三浦麻子関西学院大学教授に,社会心理学の学際性に関してお話を伺いました。第3回は学際的研究を行ううえでの学問や研究のスタンス,そして研究発表の場について話し合われました。(編集部)

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Author_KinoshitaTomio木下冨雄(きのした・とみお):京都大学名誉教授。

Author_MiuraAsako三浦麻子(みうら・あさこ):関西学院大学教授。

――学際的なことをするにあたって,性格とかパーソナリティの側面は関係ありますか。

三浦:

パーソナリティというよりは,学問や研究のスタンスとして学際的なものをどうとらえるかだと思います。人間的にどうこうということではなく。

木下:

「面白がり」「好奇心が強い」「おっちょこちょい」も含めてパーソナリティというなら関係するかもしれませんが,問題の本質は別のところにありますね。いま三浦さんが言われた通りです。小さなテクニカルタームの違いとか理論の名称とかを他の分野の人が知っているわけがないですよね。僕だって社会心理学の中の小さな理論を言われても全部知っているわけではありませんから。そのような違いを気にしていたら何もできませんし,わからなければ聞けばよいだけのことです。恥でも何でもありません。事前の勉強は全然いらないです。

ただ,先ほど言った科学的な認識論や方法論の必要性は専門知識というよりも研究者としての共通の基礎ですから,それがないと一緒にやれないです。現象を取り上げてどういう切り口で切るのか,切り取った部分集合は全体集合の中でどのように位置づけられるのか,それを分析する際に主変数は何で,剰余変数は何で,どのように操作するのか,何をコントロールするのか,といった分野を超えた一般的な議論があるわけです。科学的に研究するということへの素養は学部の学生の頃に育つものなので,それが欠けているとすれば極端にいえば研究者じゃないわけでしょう。その人とは組みにくいです。

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三浦:

私が別の分野の人と話をしていて苦手なのは,その場で共通の話題になっている現象や人間行動を,何々大学の誰それの何々理論によればこうです,というような説明をされる方です。私は例えば政治学の理論とかをよく知りません。知らないことをわかっていると思うんですが,そういうわかっていることを前提にするかのような説明のされ方しかしないことがある。全然理解できないので,ああ,そういう立派な理論を知らないとこのことは研究できないのか,ふーん,と思って,その方とは研究できないというか結局しないんですけれど。単に○○学というだけでなくてもう少し高いところから話ができたり,考え方がお互い理解し合えたりすることがわかるかどうかは大事かなと思います。パーソナリティというより,学問に対するスタンス,社会に対するスタンスとかだと思いました。

木下:

僕もそう思います。そこを見極めて面白そうだと思えば進めるのですが,こちらの認識形態と違う人と仕事をするのは大変ですよ。


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