子どものがまんを科学する――実行機能の発達(4)

実行機能を育み,鍛える

また,筆者らは子ども同士のやりとりに着目した研究を行っています。この研究では,幼児を対象に,仲間との関わり合いが実行機能の発達に与える影響を検討しました(6)。状況を統制するために,この研究では,子ども同士ではなく,子どもとぬいぐるみのやりとりの影響を調べています。というのも,子どもが2人いると,こちらが予想してない展開になることも多く,研究として成立しづらいので,まずはぬいぐるみを用いたのです。

具体的には,まず,子どもに実行機能の課題を与え,その成績を評価しました。次に,子どもにぬいぐるみを紹介し,ぬいぐるみに実行機能課題のルールを教えさせました。その後,再び実行機能の課題を与え,最初のテストに比べて成績が向上しているかを検証しました。その結果,ぬいぐるみとやりとりした群の子どもは,単純に実行機能の課題を練習した群よりも,著しく成績を向上させました。つまり,子どもは,ぬいぐるみとのやりとりを通じて,実行機能を高めたのです。まだまだ研究途上ですが,今後もこのような検討を通じて,子どもの実行機能を支援していきたいと思っています。

これ以外にも,運動を重視するものや,マインドフルネスといわれる,瞑想やヨガなどに焦点をあてるようなプログラムも提案されています。筆者の個人的な感想としては,どの子どもに対しても有効なプログラムというのは存在せず,ここで紹介してきたような方法を組み合わせたり,子どもの特性に応じたプログラムを考えたりすることが重要であるように思います。

おわりに

4回にわたって実行機能や自己制御の発達研究について見てきました。最後に,今後の研究が検討するべき問題について触れておきましょう(7)

1つは,乳児期の研究です。実行機能の研究は幼児期以降のものがほとんどですが,乳児期にその萌芽は見られるはずです。一部乳児期の研究はあるものの,まだまだ知見は多くありません。また,第2回で少し触れた青年期の研究も,今後さらなる進展が期待されています。ほかにも,発達障害の子どもを対象にした研究も重要です。一部の自閉スペクトラム症の子どもや注意欠如・多動症の子どもは実行機能に問題を抱えていることが示されていますが,実行機能がこれらの障害にいかに寄与しているかはいまだ明らかではありません。このことと関連して,実行機能が社会や対人関係においてどのように役割を果たすかは今後検討される必要があります。これまでの研究は,子どもが1人でいかに問題を解決するかに焦点をあててきましたが,より社会的な文脈の中で検討される必要があるでしょう。

また,実行機能の個人差の問題はさらに検討される必要があります。上記のように養育態度が与える影響は示されていますが,これ以外にも,きょうだいの数などの社会環境,ストレス,バイリンガル経験,遺伝子多型などが実行機能の個人差に影響を及ぼす可能性が指摘されています。これらの要因がどの程度,どのように実行機能の個人差を説明するかを検討していく必要があるでしょう。

世界の研究の進展に比して,日本の研究はまだまだ十分ではありません。まずは多くの方に興味をもってもらい,基礎的なデータを集めることが重要だと考えています。

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文献・注

(1) Noble, K. G., Norman, M. F., & Farah, M. J. (2005) Neurocognitive correlates of socioeconomic status in kindergarten children. Developmental Science, 8, 74-87

(2) De Wolff, M. S., & van Ijzendoorn, M. H. (1997). Sensitivity and attachment: A meta-analysis on parental antecedents of infant attachment. Child development, 68, 571-591.

(3) Moriguchi, Y. (2014) The early development of executive function and its relation to social interaction: a brief review. Frontiers in Psychology, 5, 388.

(4) Klingberg, T., Forssberg, H., & Westerberg, H. (2002). Training of working memory in children with ADHD. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology, 24, 781-791.

(5) Diamond, A., & Lee, K. (2011). Interventions shown to aid executive function development in children 4 to 12 years old. Science, 333(6045), 959-964.

(6) Moriguchi, Y., Sakata, Y., Ishibashi, M. & Ishikawa, Y. (2015) Teaching others rule-use improves executive function and prefrontal activations in young children. Frontiers in psychology, 6, 894

(7) 森口佑介 (2012).『わたしを律するわたし――子どもの抑制機能の発達』京都大学学術出版会


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