子どものがまんを科学する――実行機能の発達(4)

実行機能を育み,鍛える

がまんができる子どもとできない子どもとでは何が違うのでしょうか? 京都大学の森口佑介准教授が,子どものがまんについて実行機能の発達の観点から解説します。最終回は,実行機能をどのように育てるのか,そして鍛えるのかについて検討します。(編集部)

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Author_MoriguchiYusuke森口佑介(もりぐち・ゆうすけ):京都大学大学院教育学研究科准教授。主要著作・論文に,『おさなごころを科学する――進化する幼児観』(新曜社,2014年),『わたしを律するわたし――子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会,2012年)など。→webサイト

実行機能を育む

前回,子ども期の実行機能や自己制御能力が,その子どもの将来の社会的成功や健康などに大きな影響を与えることを見てきました。子どもの将来を予測する指標はさまざまに示されており,実行機能や自己制御能力はそのうちの1つにすぎないので,これらの能力が子どもの将来をすべて決めるわけではありません。ですが,子どものときの実行機能や自己制御能力の低さが,子どもの発達や教育上のリスクになりかねないのも事実です。特に,低所得の家庭に育つ子どもは,実行機能や自己制御能力の発達に問題を抱えがちであることが繰り返し報告されており,リスクが高いといえるでしょう(1)。データはほとんど欧米のものなので慎重に解釈する必要がありますが,近年日本でも所得の格差が広がっており,実行機能や自己制御能力に問題を抱える子どもも増えているかもしれません。子どもたちの実行機能や自己制御能力を支えるために,何ができるかを考えてみる必要はあるでしょう。

低所得の家庭では,なぜ実行機能や自己制御が育まれにくいのでしょうか。近年の研究は特に養育の質に焦点をあてています。養育の質は,愛着(親と子の情緒的絆)などの研究分野でその重要性が示されていますが(2),近年は実行機能の研究においても注目されています。具体的には,養育者と子どものやりとりを観察した研究から,大きく2つの要因が実行機能の発達に影響を及ぼすことが示されています(3)

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1つは,養育者による足場づくりです。これは,子どもが自分で問題解決できるように養育者が状況をうまく設定したり,変えたりすることです。例えば養育者と子どもがパズル遊びをしているときに,子どもがうまくパズルができない状況で,養育者が,子どもが自分でパズルを解決できるように,パズルのある側面に目を向けさせるなどの行動を指します。この場合,養育者は子どもが問題解決することを支援しているものの,けっして養育者みずからが解決しているわけではありません。子どもが自律的に行動をすることが支援され,自律的な制御である実行機能が育まれやすいと考えられます。

もう1つは,養育者の管理的な行動です。こちらは,子どもの実行機能の発達を阻害する要因です。これは,問題解決の際に,養育者が子どもの行動をコントロールしたり,子どもの自律的な行動を禁止して,みずから問題を解決しようとしたりする行動を指します。この場合,当然のことながら,子どもが自律的に行動する機会が奪われるので,実行機能は育まれにくくなります。


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