パーソナリティのそもそも論をしよう(4)

北村:そのうえで,資格ができて教員配置の問題が大きいのではないのではないでしょうか。大学の中でどういう専門の人に職があるかという話になった場合に,パーソナリティ・プロパーの人が入り込む余地が相対的に少ない。臨床心理の教員を4人,5人と入れたら,そこが授業をもってしまいますから。

渡邊:就職しようと思っても,「臨床心理士が必要」と書いてあったら行くことはできないものね。

小塩:アメリカだと,personality and social psychologyという色は強くて,社会心理学よりです。ヨーロッパだと,遺伝や脳科学に近いところでパーソナリティのポストがいくつかあります。いずれにしてもアメリカでもヨーロッパでも,パーソナリティのポストはあります。

渡邊:脳科学の研究者と遺伝の研究者の関わり具合も,ヨーロッパでも違うんですか。

小塩:アメリカで脳科学をやっている人も,ヨーロッパの学会に行きますよね。アメリカだとあまりメインで出てこない。やっているのはデ・ヤング(7)くらいで。彼はヨーロッパの学会に行ってもいつも来ているので。アメリカの研究者は何かのテーマを始めたら,必ず周辺も刈り取っているじゃないですか。その中に遺伝もあり脳科学もあり,という感じですね。

渡邊:アメリカだとそういう感じだよね。

小塩:日本だと尺度をづくって研究を始めて,周辺のことをいくつかやって,それで学位をとって,そしたらそのテーマが廃れてしまって,ということもある。アメリカはそうした範囲が広い感じがします。始めたら,どこかに行って脳の指標をとり,双子でやり,という一連の研究のかたまりを作っているという気がします。脳だけをやっている人もいるんですけれど,それはあまり人数は多くない。そこに乗り込んでいってやる感じかもしれません。

渡邊:それもこういう研究をしようという志向が違ってそうなるというよりは,研究の結果を評価するシステムの違いかな。われわれがもっている心理学の教育や研究のシステムは臨床心理士の資格ができたことにすごく大きく影響されちゃったんですよね。臨床心理士の資格ができたのっていつだろう。日本パーソナリティ心理学会ができる前ですよね。

北村:1980年代の終わりですかね。

フロア:いまのパーソナリティ心理学の中での臨床系の方の割合はどのくらいなんでしょうか。

渡邊:日本パーソナリティ心理学会では,自分が何の専門かを特に提出してもらっていないんですが,以前に『パーソナリティ研究』に載っている論文のおおまかな領域を私が主観的に分けて数えたことがあります。私の主観で見ると,臨床系が半分くらい。ただ先ほどみたいに,「臨床ではありません」と言われてしまうと,違ってきますが。世代が違うのかもしれないけれど,私は異常だとか,不適応に向かう方の変異が入っていると,臨床だと思ってしまいます。それが私世代の感覚だと思います。そこはそんなに簡単じゃないんですかね。

フロアI:価値で異常―正常を決めているというよりは,平均からの距離というような感じでやっていますので。良い悪いというのが,どういうことを指すんだろうというのが先ほどから思っていました。

渡邊:そうか。あまりそういうことを意識したことはないんですね。

フロアI:できるだけ,診断というものに社会的な価値基準を含めないという流れがずっとあったので。

渡邊:DSMからの流れというのはそういう意味だ。

フロアI:そうですね。

渡邊:小塩先生たちのダーク・トライアドとかはどうなの。あれは悪いパーソナリティなの?

小塩:あれは,人に迷惑をかける可能性のあるパーソナリティ群ですよね。僕はもともと自己愛を研究していたので,自己愛の研究ももともと病理からきていますし,人に対して,社会的にはあまりよくないようなものですが,研究を始めた頃はアメリカでは臨床ではないパーソナリティのところでナルシシズムの研究が尺度もできて,研究され始めていました。日本では臨床の本ばかりでした。そうした中で,そうではなくて普通の人の性格特性としての自己愛を扱うっていうのを説明するのは大変でした。

渡邊:もともと臨床的な,カウンセリングの対象というイメージ。

小塩:ナルシシズムというと,やはりフロイト(8)からの歴史がありますので。どうしても精神病理としてのもので,一般的なパーソナリティとしては,特に当時私は青年期の発達のこととからめてやっていましたので。いまだったら普通の人のパーソナリティ特性の1つとしてあって,社会的にはよくないけれども,よくないことがどうして残っているのか,という話になってきますよね。進化論的な話だと。当時はそういう枠組みがないので,発達的には,とかこういうふうに変化していくんです,というところに乗っけて学位論文を書いたんですが。15年前なので,いまとはまた枠組みが違うかなと。

渡邊:24年前に日本性格心理学会を作ったときに,日本にはパーソナリティ・プロパーがないから作ろうと言って作ったわけです。いまやあるわけですね,日本には。

小塩:(若い方は)そうなっているみたいですよ。

渡邊:フロアのみなさん方はまさにそうなんだ。日本パーソナリティ心理学会のジャーナルにみなさん書いてくれて。最近はパーソナリティ分野は,『パーソナリティ研究』が一番審査が厳しくなっています。本当にありがたいことです。そういう意味では,パーソナリティ心理学会は,パーソナリティの分野がプロパーとして日本でできていくのと一緒に育ってきたようなところがあるのかな。

小塩:そう思いますよ。私は日本パーソナリティ心理学会に最初からは参加していないですが,海外で読んだ論文は臨床でもないパーソナリティの雑誌に載っているわけです。日本でどこかというと,日本パーソナリティ心理学会にしかなくて。他の学会に行っても,日本発達心理学会(9)でもないし,病理や臨床でもないしということになると,日本パーソナリティ心理学会が一番フィットするということがありました。そうこうしていると,世代だと思いますが,海外の論文で読んだり勉強したりしたものにフィットする学会があるということが,こうした若い世代を生み出してきたのではないかなと思います。

渡邊:学会を作ってよかったですね,詫摩先生。

詫摩:そうですね。

詫摩武俊(たくま・たけとし)。東京都立大学名誉教授,東京国際大学名誉教授。日本性格心理学会(現,日本パーソナリティ心理学会)初代理事長。

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文献・注

(1) 丹野義彦(1954- )。臨床心理学者。東京大学教授。共編著に『講座臨床心理学3 異常心理学I』『講座臨床心理学4 異常心理学I』など。

(2) 菅原ますみ(1958- )。発達心理学者。お茶の水女子大学教授。

(3) 北村俊則。精神医学者。北村メンタルヘルス研究所所長。

(4) 島悟(1951-2009)。精神科医。元京都文教大学教授。

(5) 越智浩二郎。臨床心理学者。前京都文教大学教授。

(6) ISSID(International Society for the Study of Individual Differences)のウェブサイト

(7) デ・ヤング(Colin G. DeYoung)。パーソナリティ心理学者。ミネソタ大学教授。

(8) フロイト(S. Freud:1956-1939):精神分析学者,精神科医。精神分析の創始者。

(9) 日本発達心理学会のウェブサイト


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