パーソナリティのそもそも論をしよう(4)

北村:複雑なことを理解することって難しくて,簡単に考えると遺伝か環境かという二分法的思考になってしまう。二分法的に環境が大事だと言ったときに,例えばいま文部科学省が何人学級がどういう効果があるか証拠を示せと言っているけれど,つねに文部科学省や国の政策が言うことって,一律にやることを求めるんですよね。私は小学校の頃は運動が苦手だったんですけれど,遺伝的に運動が苦手な人間にこういう体育をされたら苦痛ってことがあるんです。遺伝環境交互作用としてね。苦手でどうせできないことについて,あれやれこれやれって押しつけられても,苦しみでしかないということはあるわけです。万人にとってコミュニケーション力によいことや,万人にとって幸せにする道があるわけではないと思います。遺伝環境交互作用なわけです。どういう人に対して,細かくどういった教育がよいのかとか,どういう人に対してどういう手立てがあって,どういう人だったら,こういうふうにしたら幸せかと,千差万別な遺伝環境交互作用があると思います。環境が大事だと言っても,みんなが幸せになる環境がこれだよ,というのは単純すぎるだろうから,その単純さを単純だとみんながどう認識していくかが大切な気がします。

渡邊:心理学はむしろ複雑さを伝えるみたいなことが大事でしょ。社会のことには経済的な限定がかかってくるから。規格化してみんな同じにした方が安い,ということが一方にある。規格化した方が安いということに対して,心理学がどういう文句を言えるか,ということはありますよね。そういうことは心理学者が言っていかなくてはいけないと思います。かといって,全員用にカスタマイズした教育なんてできようがないんだし。あらゆるものは中間の程度問題なんですが。

北村:中間の程度問題に耐えるのが民主主義なんじゃないでしょうかね。中間のr=.3とは何か,みたいなところを耐え忍ぶ人を養成するという。

パーソナリティ研究における臨床・異常研究の位置づけ

渡邊:先ほど,臨床の人格心理学と臨床以外の人格心理学の話がありました。臨床の重みづけが大きくなったということと,パーソナリティ分野に使われる指標が変わってきたことと関係があるんだろうなあと思います。みなさん,専門は何ですかと聞かれて何と答えますか。臨床心理学と答えますか,パーソナリティ心理学と答えますか。

小塩:ここにいるメンバーはパーソナリティ心理学じゃないですかね。

渡邊:パーソナリティ心理学って答えるの,本当。ただ,Iさんのテーマはわれわれから見ると臨床心理学ですね。

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フロアI:臨床心理学というか異常心理学という言い方をすることは多いです。

渡邊:ああそうか。自分で異常心理学っていうの?

フロアI:言います。

渡邊:いま異常心理学って言っても怒られない?

フロアI:怒られたことはないです。

渡邊:ああそう。何か俺らの頃は怒られることがいろいろあったんだなあ。

北村:日本で復活させた言葉だよね,丹野義彦先生(1)が。

渡邊:異常心理学という言葉が復活したのも象徴的なことですよね。昔から,異常に関係することは遺伝指標や生理指標と結びつけるのは心理学の中ではごく普通だった。どちらかというと心理学のプロパーというよりは精神医学のプロパーだっただろうと思うけれど,精神医学の分野と臨床心理学の分野はそれほど離れてはいなかったよね。

北村:精神医学というより精神分析だとは思いますけれど。

渡邊:東京都立大学だと,佐藤達哉や菅原ますみ先生(2)は精神科の先生方と研究していました。北村俊則先生(3),島悟先生(4)とかと,育児ストレスの研究などをしていました。東京都立大学は精神分析の先生との関わりはあまりなかったなあ。

北村:北村先生は精神衛生研究所ですよね。山本和郎先生や越智浩二郎先生(5)がいたのも精神衛生研究所でしたから,そういう関わりはありましたね。

渡邊:いまは若い方々は精神医学の人たちとの関わりってあるんですか。

フロア男性:私はけっこう多いですね。

渡邊:心理学全体の中で臨床の占める地位がものすごく上がって,そこと精神医学との距離が当然近いので,遺伝指標みたいなものが復活してきたり,心理学の中でのパーソナリティ変数の使われ方で臨床的なものが増えてきたりしました。今回,公認心理師のカリキュラム案が出ましたが,人格心理学は臨床心理学の中に入っています。これはすごくはっきりしたことです。公認心理師の資格の仕組みのイメージでは,パーソナリティ心理学は臨床心理学の一分野なんですね。

小塩:認定心理士もそうですよね。

渡邊:そうなんです。だからもともと,心理学ワールドではパーソナリティ心理学は臨床の一分野の扱いなんですね。

小塩:ただ,海外のパーソナリティの学会に行くと,まったく臨床がないんです。

渡邊:ああそう。

小塩:ほぼないです。パーソナリティ研究のプロパーはパーソナリティの研究をしているんです。もちろん接点はあって,DSMベースの指標をとったりはするんですが。臨床の話はないです。ARPとかISSID(International Society for the Study of Individual Differences)(6)に行っても。

渡邊:研究の大きな流れは共通していますよね。

小塩:ビッグファイブや,望ましいもの・望ましくないものとしてダーク・トライアドや幸福感などいろいろなものが入ってくるんですが,臨床の話はないです。

渡邊:そこの臨床というのは現場の話?

小塩:そうです。現場の話ですね。病理の話,異常心理学はあって,測定されたものの話はあるんですが,患者さんを処置するような話はまったくないです。

渡邊:そこはじゃあ違うんだね。

小塩:違うんです。そのイメージで来ると,日本はすごく離れた感じがしてしまいます。

渡邊:30年,40年の流れを見たときにどうでしょう。学会ができる前に人格やパーソナリティを言っている人がもっぱら臨床心理学分野の人だったからかなあ。


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