パーソナリティのそもそも論をしよう(3)

パーソナリティのそもそも論をしよう。パーソナリティ心理学の歴史的・社会的文脈と最近の動きとを結びつけることで何が見えてくるのか。渡邊芳之教授と小塩真司教授が対談を行い,北村英哉教授,詫摩武俊名誉教授らを交えて議論を深めます。第3回はパーソナリティ心理学やポジティブ心理学と時代の風潮の関係について、話が展開されました。(編集部)

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→昨年に連載しました渡邊芳之教授と小塩真司教授による「歴史的・社会的文脈の中で心理学をとらえる」もぜひご覧ください

時代の風潮

北村:先ほど、時代の風潮との関係を言われていましたが、ポジティブ心理学や幸せがはやっているのはなぜかなあということは私も思うんですが、高度成長などが終わって世の中が少し安定してくると、何か別の人生目標や要望など、例えば冷蔵庫が買いたいとか会社の社長になりたいとか、具体的なものが減るので、曖昧な人生の中で「幸せになりたい」というのが目標として立ってくるから、そういうウェルビーイング研究がはやって、幸せになるためにはどうすればよいのか、という話が出てくるのかなと感じました。

Author_KitamuraHideya北村英哉(きたむら・ひでや):関西大学社会学部教授。主要著作・論文に,『進化と感情から解き明かす社会心理学』(有斐閣,共著,2012年),『認知と感情――理性の復権を求めて』(ナカニシヤ出版,2003年),『なぜ心理学をするのか――心理学への案内』(北大路書房,2006年)など。→webサイト,→twitter: @pentax

一方で遺伝の話が最近出てきたことをあわせて考えてみると、高度成長のときには社会階層の移動もいっぱいあったし、頑張ればいろいろなものが変わっていく時代でしたが、そういう時代には環境によって人が変わるというイデオロギーの方がフィットするように思います。アメリカも、変わっていって成長していって成功をつかむという社会だから、行動主義みたいに環境の影響を受けたり、自分が努力したりということで人生が変わるというイデオロギーが伴いやすいわけです。

階層社会学でいわれているように、だんだん固定していくと、東京大学に入るのも比較的裕福な層が多くて、金持ちで教育のある層の子どもがまた偏差値の高い大学に入って、より給与の高い会社に入るという再生産になります。固定されていくと、理由が欲しいのかな、と思うんですよね。風通しがいいときには変化に目が行くけれども、固定化が進んでしまって、どうしてだろう、ということになると、変わらないものに目が行く。変わらないから仕方がない、と。

渡邊:世の中が変わらないのであれば、変わらないものの方が予測力が高いものね。

Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に,『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社,2010年),『心理学方法論』(朝倉書店,2007年,編著), 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト,→twitter: @ynabe39

北村:そうなんですよね。2000年代から社会学の調査などで階層の再生産というデータをどんどん示してきたじゃないですか。いつも思うんですが、社会学者は本の中で一言も言わないんですけれど、遺伝要因がありますよね。金持ちの家で教育程度が高いところに生まれたのが、お金があるから教育機会に恵まれてよい教育を受けて塾とかに行って私立中学に行くという説明なんですが、遺伝要因もありますよね。そもそもg(一般知能因子)の遺伝規定性が50%くらいあるわけですから。社会学者は黙っているわけですが、世の中の人はうすうす感じていることではないでしょうか。

渡邊:それは先生の言う通りで、これも順番が逆なんだよね。社会学者は言いたいことがある意味決まっていて、それを言うためにデータを利用するんだよね。言ってみれば、これじゃいけないと言いたい人たちなので。ただ、この問題でこれじゃいけないと言わないというのも難しいですが。前の問題に戻りますが、遺伝の問題もすごく大きいとして、それを言ってどうするか、ということになりますよね。

北村:フォーク・サイコロジー(素朴心理学)では、人々の間には知能や頭の良さには遺伝的な要素があると薄々思っているところがあるんですけれど、人間関係や対人関係はまだ遺伝の影響が薄いんじゃないかと思っているところがあるように思います。実際は性格も遺伝規定性があるわけですが。

渡邊:変えたいか予測したいのかなんですよ。研究者としても変えたい研究なのか、予測したい研究なのかがあると思いますが、一般の人がパーソナリティや人間の能力を考えるときにも変える志向の考え方をするときと、予測する、そして選抜する志向の考え方をするときの両方があります。少し前に小塩先生がおっしゃったように、同時にはできないわけですよね。

北村:予測でみんなが考えているのか、もしかすると自分の人生の予測なのかもしれませんが、先ほど話のあった非認知特性がはやりだすというのは知能は決まっていて仕方ないかもしれないけれど、そっちは決まらないよね、と。

小塩:そちらは教育で何とかなりそうだと。

Author_OshioAtsushi小塩真司(おしお・あつし):早稲田大学文学学術院教授。主要著作・論文に,『Progress & Application パーソナリティ心理学』(サイエンス社,2014年),『性格を科学する心理学のはなし――血液型性格判断に別れを告げよう』(新曜社,2011年),『はじめて学ぶパーソナリティ心理学――個性をめぐる冒険』(ミネルヴァ書房,2010年)など。→webサイト,→twitter: @oshio_at

北村:そうそう。偏差値が高かったり知能が高かったりしても幸せになれるとは限らない、人間関係の要素が多いよね、と。社会的な成功も人間関係や非認知要素も高いよね、とたぶん政治家も思っていると思うんですよね。そこで、非認知特性に注目してみよう、と。そこでヒントをつかめば、そこをアメリカ的に言えば、ノウハウを使って、自己制御能力を高めれば自分も成功がつかめるかもしれない。

小塩:小さいときからマシュマロを我慢させるんですね。


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