パーソナリティのそもそも論をしよう(2)

パーソナリティのそもそも論をしよう。パーソナリティ心理学の歴史的・社会的文脈と最近の動きとを結びつけることで何が見えてくるのか。渡邊芳之教授と小塩真司教授が対談を行い,北村英哉教授,詫摩武俊名誉教授らを交えて議論を深めます。第2回はパーソナリティ概念のそもそも論が展開されました。(編集部)

連載第1回はこちら

→昨年に連載しました渡邊芳之教授と小塩真司教授による「歴史的・社会的文脈の中で心理学をとらえる」もぜひご覧ください

パーソナリティ概念

渡邊:私たちが大学院に入った頃には長期の縦断研究は,詫摩先生の双子の研究が代表的でした。縦断的なデータセットが1985年にはなかった。いまはそれがある。縦断的なデータセットが手に入るようになると,縦断的なデータに合った分析をしたくなる。縦断的なデータに合った分析の典型的なものといえば,予測ができるかどうか,ということ。

いまの話で,パーソナリティという概念はかわいそうなものだと思った。必要に応じて,意味が書き換えられてしまうもので,いまの話は典型的なことで1970年代,80年代にあった養育態度と性格の関係の研究だと,パーソナリティは従属変数で,結果だった。一方,いま先生が研究されているような研究だと,独立変数で,非常にたくさんある独立変数の中のごく一部になっている。

同じようなことを感じたのは,私は畜産の大学に勤めていますが,そこで優良盲導犬の生殖科学的育成という研究に少し関わりました。基礎知識として,盲導犬は盲導犬として使われる前にオスもメスも去勢されてしまうので優秀な盲導犬の子どもというのは原則としてできないわけです。そうしたなか,どうやって優秀な盲導犬を育成していくかを,具体的には去勢する際に,精巣や卵巣,子宮などを凍結保存しておいて,それを移植したりして,優秀な盲導犬を作ろうとしています。そこに心理学者も入っています。

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Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に,『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社,2010年),『心理学方法論』(朝倉書店,2007年,編著), 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト,→twitter: @ynabe39

小塩:帯広畜産大学で開催されたパーソナリティ心理学会(第16回大会)で話がありましたね。

Author_OshioAtsushi小塩真司(おしお・あつし):早稲田大学文学学術院教授。主要著作・論文に,『Progress & Application パーソナリティ心理学』(サイエンス社,2014年),『性格を科学する心理学のはなし――血液型性格判断に別れを告げよう』(新曜社,2011年),『はじめて学ぶパーソナリティ心理学――個性をめぐる冒険』(ミネルヴァ書房,2010年)など。→webサイト,→twitter: @oshio_at

渡邊:そうそう。そのときに講演をしてもらいました。その研究グループの中にいたら,性格ということの役割は非常に明確です。彼らは遺伝と環境という言い方はせず,適性と訓練と言います。畜産でいうと本来は,適性というのは育種なんです。盲導犬の場合はそういう特殊事情があり,人為交配で作っていくことができないので,特別な方法を使うことになっています。

訓練というのはすごくはっきりしていて,盲導犬協会が全国各地にあって,ある程度確立された訓練技法を使って,盲導犬として必要な技能の内容は訓練できます。彼らに言わせると,それでも訓練できないものがある。それが性格だというわけです。

盲導犬は人と慣れないイヌは使えないですけれど,人と慣れすぎてもいけない。ユーザー(利用者)以外にも尻尾を振ってしまうイヌは向かない。適切な対人性が決まっている。いままでは,候補になるイヌは全部訓練して,その中から3割,4割がうまくいく。その他,性格面でうまくいかないイヌもいる。そういうイヌはどうするかというと,盲導犬のキャンペーンで募金箱を置いて募金している場面を見たことがある人もいるかと思いますが,そこに来る盲導犬は外された盲導犬なんです。使える盲導犬はユーザーのところで働かなくてはいけないので。この外れるイヌをいかに小さくするか。

そのときに用いるのが性格で,そこで調べられるのは遺伝だけなんです。すぐに遺伝子の分析になる。彼らはパーソナリティと言わずキャラクターと言いますが,彼らの言うキャラクターは100%生得的なもので,見られる指標は遺伝です。その研究グループでは,対人性に影響する遺伝子座をいくつか発見して,2,3本論文になっています。

小塩:その対人性は,どうやって把握するんですか。

渡邊:それは質問紙。

小塩:質問紙ですよね。

渡邊:それが質問紙なんだよね。後でそのことには触れようと思うけど。

小塩:そのことを帯広で開催されたパーソナリティ心理学会大会で思ったんです。結局,チェックリストで聞くんだ,と思いました。先日インターネットで見た脳科学に関する記事でもそうなんですけれど,質問紙で例えば幸福感を測って,それで反応する脳の部位を特定するわけじゃないですか。どちらが誤差が少ないんだろう,と思います。質問紙で測っている時点でけっこう誤差が入りまくっているものを基準にするわけですよね。

渡邊:従属変数というか基準変数ですからね。

小塩:基準ですよね。基準関連妥当性じゃないですか。それを基準にしておいて,遺伝子座を探す,あるいは脳のどこが光るかを探すわけなので。

渡邊:盲導犬の話も,最終的に盲導犬の適性がどのように判断されるかというと,訓練士がこいつはいいというところに落とし込まれていく。面白いのは,質問紙と遺伝指標が全然相関しないかというとそんなことはないじゃないですか。若い研究者のみなさんがなさっているみたいにちゃんと相関するし,いろいろな予測ができるわけでしょ。質問紙っていいものなんじゃないのというのが1つだし,盲導犬でいえば訓練士の目を誰も否定できない,すごく妥当性のあるものと考えられている。むしろ客観的な意味での盲導犬としての適性を予測するのではなく,絶対的な妥当性をもっていると社会的に承認されている盲導犬訓練士の判断を予測するわけです。

小塩:なるほど。


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