子どものがまんを科学する――実行機能の発達(2)

自己制御の発達の生物学的基盤

幼児期の実行機能

それでは,幼児期の実行機能の発達とその脳内機構について見ていきましょう。前回,実行機能にも,抑制,切り替え,作業記憶などの側面があることを紹介しました。幼児期にはこれらの側面は成人ほど明確に分離できないのですが,それぞれの側面の発達が検討されています。ここでは,切り替えの発達について見ていきます。

前回,子ども向けの課題としてルール切り替え課題を紹介しました。この課題では,子どもは,第1段階では,2つの次元のうち1つ(例えば,色)でカードを分類するように教示され,第2段階では,1つ目とは異なる次元(例えば,形)で分類するように教示されます。この課題において,3歳児は,第1段階を難なく通過することができるのですが,第2段階に困難を示します。第2段階においては,第1段階におけるルール(色)から,新しいルール(形)に切り替えなければならないのですが,その切り替えができません。第1段階におけるルール(色)を使い続けてしまうのです。4歳頃から切り替えができるようになり,5歳児はこの課題でほとんどエラーをしません。

この課題で見られるルールの切り替えに,前頭前野の一部領域が関わっているようです。筆者らは,近赤外分光法という方法を用いて,この課題における幼児の脳活動を調べました(3)。近赤外分光法では,近赤外光を頭皮から照射することで,ある脳領域における血流の変化を調べることができます。ある脳領域において血流が変化することは,その領域が活動していることを示唆します。この方法は他の方法と比べると拘束性が低いことなどから,乳幼児の脳の働きを調べることに適しています。

筆者らは,3歳から4歳にかけて,同じ子どもの発達を追跡する縦断的検討を実施しました。まず,3歳の時点でルール切り替え課題を与え,その課題時における外側前頭前野の血流変化を調べました。3歳の時点において,課題に通過した子ども(通過群)としなかった子ども(失敗群)がいたため,それらの課題を分けて分析する必要があります。この調査に参加してもらった1年後に再度保護者の方にコンタクトをとり、4歳になったときにどのような変化が見られるかを検討しました。

ここでは,変化が明確な失敗群の子どもの結果について紹介します。失敗群の子どもは,3歳時点においてはルールの切り替えに失敗したのですが,4歳時点においてはほぼ完璧に課題に通過しました。1年間の間に,切り替えの能力が向上したのです。彼らの脳活動を見てみると,3歳時点においては外側前頭前野の血流変化は非常に弱かったのですが,4歳時点においては3歳時点に比べて,血流変化が著しく強くなっていました。この結果は,前頭前野の活動の発達的変化と,切り替え能力の発達が関係していることを示唆しています。幼児期において,前頭前野の活動は著しい変化を示すのです。


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