子どものがまんを科学する――実行機能の発達(2)

自己制御の発達の生物学的基盤

青年期の自己制御

次に,青年期について見ていきましょう。幼児期に著しく発達する実行機能は,児童期にも緩やかに発達します。その結果として,青年期において,実行機能は幼児や児童よりも発達しています。前回述べたように,実行機能や前頭前野は自己制御と密接に関わるので,子どもよりも青年の方が,自己制御が得意であることが予想されます。ところが,実際には必ずしもそうではありません。青年期の若者は,お酒やタバコに手を出したり,些細なことで暴力を振るったり,インターネットやゲーム依存症になったりと,自分の行動の制御に困難を示します。このような青年期の自己制御は,現代の発達心理学や認知神経科学の中でも注目を集めています。日本でも青年期の自己制御の発達を探るプロジェクトがありますし(4),脳の発達に関する国際学術誌で特集が組まれたりするなど(5),研究の最前線といえます。そのため,現時点ではまだ確定的なことはいえないのですが,とても面白い研究がなされているので,その一端を紹介しましょう。

まず,心理学実験を紹介しましょう(6)。ある研究では,8歳から25歳の参加者を対象に,ギャンブルのような実験を行いました。この実験では,いくつか選択肢があり,ある選択肢を選ぶと,多額の報酬をもらえるか,もしくは多額の損失をするかになります。ハイリスク・ハイリターンです。別の選択肢は,少額の報酬をもらえるか,もしくは少額の損失をするかになります。ローリスク・ローリターンです。この選択を一定の回数を行ってもらいます。全体的に考えると,ローリスク・ローリターンの選択肢を選び続ける方が着実に報酬を得られるのですが,成功した際に一度にもらえる金額はハイリスク・ハイリターンの方が多いため,そちらを選びたくなってしまいます。この実験の結果,子どもや大人よりも,12歳から15歳の青年の方がハイリスク・ハイリターンの選択肢を選びやすいことが示されました。青年は多額の報酬を前にすると,リスクが大きくても,そのような行動を選択してしまいます。彼らは,自分の行動を制御することが難しいのです。

なぜ,実行機能や前頭前野が発達しているはずの青年の方が,自分の行動を制御できないのでしょうか。このことを理解するためには,前頭前野以外の脳領域も考慮しなければなりません。ギャンブルのような状況においては,報酬に対して感受性をもつ皮質下の一部領域(線条体とよばれる領域など)が重要になってきます。青年期の自己制御を説明するためには,報酬に対して近づこうとするこの領域の活動と,それを調整する前頭前野の双方を考慮しなければならないのです。

最近の研究によって,児童期や成人期よりも,青年期の方において,報酬を提示されたときの皮質下の一部領域の活動が強いことが報告されています(7)。特に,13,14歳頃において,この領域の活動がピークを迎えているのです。つまり,青年期においては,皮質下の領域の活動がきわめて強くなり,前頭前野が十分にその活動を調整できていない可能性があります。ここでは,前頭前野と報酬に対して感受性を持つ皮質下の領域のみを考慮しましたが,これ以外にも,青年期の自己制御を説明するさまざまなモデルが提案されており,今後より詳細が明らかになっていくと考えられます。

次回は,実行機能が子どもの発達の中でどのような役割を果たすかを紹介します。

(→続く;近日公開予定)

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文献・注

(1) Taki, Y., Hashizume, H., Sassa, Y., Takeuchi, H., Wu, K., Asano, M., Asano, K., Fukuda, H., & Kawashima, R. (2011). Correlation between gray matter density-adjusted brain perfusion and age using brain MR images of 202 healthy children. Human Brain Mapping, 32, 1973-1985.

(2) Casey, B. J., Tottenham, N., Liston, C., & Durston, S. (2005). Imaging the developing brain: What have we learned about cognitive development? Trends in Cognitive Sciences, 9, 104-110.

(3) Moriguchi, Y., & Hiraki, K. (2011). Longitudinal development of prefrontal function during early childhood. Developmental Cognitive Neuroscience, 1, 153-162.

(4) 長谷川寿一監修,笠井清登・藤井直敬・福田正人・長谷川眞理子編 (2015).『思春期学』東京大学学術出版会
精神機能の自己制御理解に基づく思春期の人間形成支援学」も参照。

(5) Luciana, M., & Ewing, S. W. F. (2015). Introduction to the special issue: Substance use and the adolescent brain: Developmental impacts, interventions, and longitudinal outcomes. Developmental Cognitive Neuroscience, 16, 1-4.

(6) Burnett, S., Bault, N., Coricelli, G., & Blakemore, S.-J. (2010). Adolescents’ heightened risk-seeking in a probabilistic gambling task. Cognitive Development, 25, 183-196.

(7) Van Leijenhorst, L., Moor, B. G., de Macks, Z. A. O., Rombouts, S. A., Westenberg, P. M., & Crone, E. A. (2010). Adolescent risky decision-making: neurocognitive development of reward and control regions. Neuroimage, 51, 345-355.


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