意外といける! 学習心理学(4)

学習研究に未来はありますか?

その射程の広さとは裏腹に、「とっつきにくい」とも思われがちな学習心理学。「意外といける」その魅力を、専修大学の澤幸祐教授が語ります。第4回(最終回)では、学習研究の広がりを見据えながら、「未来を変える学問」である学習研究の未来について考えます。(編集部)

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Author_SawaKosuke澤 幸祐(さわ・こうすけ):専修大学人間科学部心理学科教授。主要著作・論文に、The effect of temporal information among events on Bayesian causal inference in rats.(Frontiers in Psychology, 5, 2014,共著)、Causal reasoning in rats.(Science, 311(5763), 1020-1022, 2006,共著)など。→webサイト、→Twitter: @kosukesa

学習研究の多様性

学習研究に未来はあるのでしょうか? 学習心理学者を名乗っている以上、「あるよ未来! 俺が作る!」と言いたいところですが、心理学界隈で学習研究が占める割合はけっして大きくないように見えるのが現状です。行動主義華やかなりし頃は石を投げれば学習研究にあたるといった状況でしたが、日本心理学会での発表件数を見ても学習のセクションはどうひいき目に見ても右肩下がりです。ウナギかマグロか学習研究かというくらいの絶滅危惧種に、本当に未来はあるのでしょうか。明るい未来のためには、より多くのみなさんに興味をもってもらい、より多くの興味深い現象や研究対象があることを知ってもらうことが必要だと思います。

これまで、古典的条件づけや道具的条件づけといった話題を取り上げてきました。これらは、手続きとしても現象としてもとても単純で、だからこそ応用できる範囲も広いのです。しかし、単純な反射を扱うだけのものという誤解や、興味深い現象は認知心理学の研究にすべて吸収されたと思われている部分があり、学習心理学と銘打った研究は数自体も減ってしまい、いまいちその広がりは見えにくかったかもしれません。そこで、こうした現象がどんな話題を扱うのに用いられているかをいくつか紹介したいと思います。

進化と学習

みなさんは、進化論という言葉をご存じでしょうか。おおまかに言ってしまうと、われわれのようなヒトを含む生物は、大昔からいまのような形をしていたのではなく、共通の祖先から進化して枝分かれして生じてきたという考え方です。細かい点ではいろいろな意見があるものの、自然科学の世界では広く受け入れられているアイデアであり、心理学でも例外ではありません。

進化の原動力にはさまざまな要因があります。代表的なものは自然淘汰であり、「与えられた環境の中でより多くの子孫を残すことができた個体の特性が次世代に受け継がれる」というものです。たくさんのエサをとることができた方が生き残る可能性が高くなりますし、また天敵から身を守る術をもっている個体の方が生き残る可能性が高くなり、結果的により多くの子孫を残すことにつながります。そして、より多くの子孫を残すことに決定的な意味をもつのが配偶者選択であり、生殖です。どれだけエサをたくさんとって天敵から身を守ろうが、パートナーを見つけて子孫を残さなければどうにもなりません。


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