意外といける! 学習心理学(2)

学習研究ってそんなに役に立ちますか?

その射程の広さとは裏腹に、「とっつきにくい」とも思われがちな学習心理学。「意外といける」その魅力を、専修大学の澤幸祐教授が語ります。連載の第2回は、「学習研究ってそんなに役に立ちますか?」という問いに答えるべく、学習研究の中でも重要な古典的条件づけと道具的条件づけを紹介します。(編集部)

連載第1回はこちら

Author_SawaKosuke澤 幸祐(さわ・こうすけ):専修大学人間科学部心理学科教授。主要著作・論文に、The effect of temporal information among events on Bayesian causal inference in rats.(Frontiers in Psychology, 5, 2014,共著)、Causal reasoning in rats.(Science, 311(5763), 1020-1022, 2006,共著)など。→webサイト、→Twitter: @kosukesa

僕は好き嫌いが多い

僕は食べ物の好き嫌いが多く、「子どもか!」と言われることがあります。なかでも僕は、お好み焼きが食べられません。僕は山芋アレルギーで、山芋を食べると気分が悪くなってしまうのですが、小学生時代に山芋入りのお好み焼きを食べて体調を崩して以来、山芋が入っていてもいなくてもお好み焼きがどうしても食べられなくなってしまいました。

この現象は、味覚嫌悪学習と呼ばれる、古典的条件づけの一種です。前回紹介したように、古典的条件づけという現象は、パヴロフによって発見されて以来、100年以上にわたって学習研究の重要なツールとして利用されてきました。今回はここから始めたいと思います。

嫌いな食べ物をどうして嫌いになったのか?――古典的条件づけとは何か

イヌに対してエサを与えると、唾液を分泌しますが、これは生まれながらにもっている反射です。このように、生得的に反応を引き出す力をもっている刺激(ここではエサ)を無条件刺激と呼び、無条件刺激によって引き出される反応(ここでは唾液の分泌)を無条件反応と呼びます。一方で、イヌにメトロノームの音を聞かせても、特段強い反応は出てきません。しかし、メトロノームの音に続いてエサを対提示することを繰り返しイヌに経験させると、メトロノームの音(条件刺激)が提示されただけで唾液を分泌する(条件反応)ようになります。こうした条件刺激と無条件刺激の対提示によって条件反応が獲得される現象を、古典的条件づけと呼びます。

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冒頭で、僕がお好み焼きが食べられないというお話を紹介しました。これは、お好み焼きの味を条件刺激、体調不良という無条件反応を引き出す山芋を無条件刺激とした古典的条件づけです。僕はお好み焼きから不快な気分を感じてしまうという条件反応を獲得したわけです。動物にとっては、何を食べ、何を食べないかという食物選択は、文字通り生きるか死ぬかを左右するとても重要な問題です。何かを食べて気分が悪くなったのであれば、次からはそれを食べるのは避けた方が生存に有利です。味覚嫌悪学習は、人間だけではなくラットなど多くの動物でも生じることが知られており、動物の食物選択に重要な役割を果たすことが知られています。古典的条件づけは、時に生き物の命に関わる重要な学習なのです。

味覚嫌悪学習において、人間やラットは何を学習したのでしょうか。ラットを使ったこんな実験があります(1)。ラットに対して、砂糖水を飲ませた後に塩化リチウムという内臓に不快感を引き起こす薬物を注射すると、味覚嫌悪学習が生じ、砂糖水を飲まなくなります。別のラットに対しては、砂糖水を飲ませた後に電気ショックを与えます。味覚嫌悪学習を発見したジョン・ガルシア(2)は、味覚と電気ショックの間では学習が生じないと主張しましたが(3)、この研究では、必要な経験の数は格段に多いものの学習自体は生じ、ラットは砂糖水を飲まなくなりました。砂糖水の後に内臓の不快感を経験したラットと砂糖水の後に電気ショックを経験したラットは、どちらも同じように砂糖水が嫌いになったのでしょうか?


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