意外といける! 学習心理学(4)

学習研究に未来はありますか?

古典的条件づけが生殖に与える影響について、ドムヤンたちが行った一連の研究を紹介しましょう(1)。オスのウズラを被験体として、光刺激を条件刺激、メスのウズラを無条件刺激として対提示を行います。光刺激が提示された後、メスと対面できるというわけです。ウズラのオスはメスと対面すると交尾を行います。この手続きは、性的条件づけと呼ばれており、古典的条件づけの一種です。さて、メスと対面して交尾を行う前に光刺激の提示を行うという条件づけによって、何が起こるでしょうか。ドムヤンたちの研究によると、光刺激の提示によってメスとの対面を信号されたオスは、そうした刺激なしにメスと対面したオスに比べて、交尾までの時間が短くなることが示されました(2)。それだけではありません。条件づけられたオスは、射精量まで増えることが明らかになりました(3)。さらに驚くべきことに、条件づけされたオスとそうでないオスが同じメスと交尾したところ、メスは条件づけられたオスの子どもを妊娠する確率が高いことも示されています(4)

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成鳥のウズラ(手前がオス、奥がメス)(5)

学習という機能も進化の産物です。学習能力の高い個体の方が低い個体よりも生存に有利で、より多くの子孫を残すことができたことは容易に想像できます。しかし、この一連の実験は「学習能力の高い個体が子孫を残した」ということではなく、「学習経験のあった個体が子孫を残した」ということを示しています。もちろん、学習能力が備わっていないと適切な経験があったとしてもこうした結果にはならないのですが、進化の道筋に学習経験が影響を与えるというのは、とても興味深い話に思えます。

広告と学習

テレビをつけてもインターネットを見ても、街を歩いても至るところに広告があります。広告とは、企業などが売り込みたい商品を消費者に向かってアピールするためのもので、「それまで買わなかったものを買ってもらう」「それまで足を向けたことのない場所に行ってもらう」などのように、行動の変容を促すことが大きな目的です。行動の変容を引き起こすわけですから、広告を受け取る側は、広告という刺激によって何かを学習しているわけです。こじつけのように聞こえるかもしれませんが、「経験によって生じる比較的永続的な行動の変化」が学習ですから、広告によってわれわれが行動を変えていくならば、そこには学習心理学の研究対象が存在します。

なぜ広告は、われわれの行動を変えてしまうのでしょうか。われわれのまわりの広告は、一方的に刺激として提示されるものが大半です。テレビのCMは、視聴者が何かの行動をとらなくとも(電源を切ったりチャンネルを変えたりしない限り)流れ続けます。街角の看板も、われわれが目を背けない限りは視界に入ったままです。これはつまり、「音刺激の後にはエサが提示される」とか「光刺激の後にはメスと対面する」といった古典的条件づけと同じ構造になっているということです。実際に、コカ・コーラ社は自社広告に古典的条件づけの知見を応用していました(6)。典型的なテレビCMを思い出してください。好感度の高いタレントや音楽、美しい景色とともに商品が提示されるというケースが多いでしょう。これはつまり、商品を条件刺激、タレントや音楽を無条件刺激とした古典的条件づけの枠組みで理解することができます。ここでの条件反応は、商品に対する評価の変容です。もともと好きでも嫌いでもなかった商品に対する評価が、好印象な刺激と一緒に提示されることでポジティブなものへと変化するわけです。この手続きは特に評価条件づけと呼ばれ、恐怖条件づけなどとは異なる特徴をもつこともわかっているのですが、古典的条件づけの大きな枠組みでとらえることは可能です(7)

好感度の高いタレントを使うと商品の評価がポジティブに変わるなら、逆のことも起こりそうに思えます。実験では、不快なもの(クモやゴキブリ、不快な表情をした顔)を用いると、条件刺激に対する評価をネガティブに変えることができることも明らかになっています。そして困ったことに、僕が過去に関わった実験では、ポジティブに評価を変えるよりもネガティブに変える方がずっと簡単であるという結果が得られたことがあります。CMに起用するタレントを決めるときには、慎重になった方がよいかもしれません。


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