歴史的・社会的文脈の中で心理学をとらえる(1)

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小塩:アイデア的には同じようなことをやりたいんだと思うんですけど、やり方が違う感じがあって。どうやったら受け入れられるかということを、工夫してきているように思うんですよね、それぞれの時代に。

渡邊:フロイトはその当時の蒸気機関のような、無意識の中に蒸気がもち込まれているイメージをもっていた。蒸気が押し込まれると、すき間があるとそこから吹き出すわけだが、夜に寝ているときというのは抑えが弱い状態だから蒸気がシューシュー抜けてくる。そういうイメージでとらえていた。

小塩:あまりに抑えつけると爆発する。

渡邊:フロイトが蒸気機関だったものが、いまは脳になっている。フロイトはいま生きていたら、彼は医者だったから脳の話をしていたと思う。

小塩:脳のメタファは、コンピュータ・モデルからネットワーク・モデルになっている。メタファも変わってきています。

渡邊:もう計算のモデルがないものね。だからそんなような絵が描けると面白いじゃない。パーソナリティに限らず。

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小塩:あとポジティブ心理学が出てきてから、ポジティブ方向とネガティブ方向に特性がスパッと分かれてきた感じはする。それまでは個人差に関して、あまり「よい」というのをつけなかったはずなんですけど。

渡邊:これはすごく大きな文化・社会の流れだよね。いまの倫理学を見ていても、英米の倫理学では何が正しいと言い始めているでしょ。長年、人文科学は正義については語らないし哲学だって分析哲学は言葉について考えるだけでその中身についてはほとんど考えなかったけど、哲学もどうもそっちに戻ってきている。世界をどうとらえるべきかみたいなことに。倫理学は正義に戻ってくる。では心理学は何に戻ってくるのか。ただ、倫理学は昔から「よいもの」の話はしていたわけだから。心理学は昔から「悪いもの」の話しかしてこなかった。

小塩:歴史的には複合的かもしれない。心理学では、「能力」という言葉を使ってきた。能力はやっぱりポジティブ方向ですし。知能もそうですし。

渡邊:能力と知能に関して、心理学者はアセスメントの思想として、よい悪いは結果について評価する人が決めることで、我々は客観的にアセスメントしているだけだと言い続けてきた。そんなわけないんだ。これも倫理の問題ですよね。心理学も倫理を言わないといけなくなっている。おそらく文系諸学の中では倫理のことを言わないと、これからは居場所がなくなってくる。心理学が倫理を言わないで客観的なアセスメントだと言い続けるには、自然科学化の方向に行かないといけない。

小塩:キャラクター(character)という単語も復活しだしました。

渡邊:けっこう言っているよね、キャラクターって。

小塩:もともとオルポート(12)はパーソナリティ(personality)という言葉を使って、キャラクターを使わなくしていった方なので、揺り戻しが起きています。

渡邊:キャラクターは道徳的な意味がある。不思議だけど、日本人の英語感覚でいうとキャラクターの方が客観的な気がする。キャラクターのもともとの意味には「(道徳的)特性」とか「(道徳的)特徴」とか書いてある。明治時代に渡辺徹(13)とかが人格について書いたときに、人格というのは望ましい人の在り方だった。道徳とか倫理も含めていた。「人格」という日本語の問題もすごくある。personality=人格ではない。明治時代の話もいくつかのテーマでは見なければいけない。「変わるもの変わらないもの」から始めて、その後に脳とか倫理とか無意識の話を今度したい。

(→第2回に続く

文献・注

(1) 澤幸祐(1973- ):専修大学人間科学部教授。専攻は学習心理学。

(2) 今田寛(1934- ):関西学院大学文学部教授、同大学学長、広島女学院大学学長を歴任。現在は関西学院大学名誉教授。専攻は学習心理学。

(3) 日本心理学会:対談は2015年9月に開催された日本心理学会79回大会の会期中に行われました。

(4) 『パーソナリティ研究』は日本パーソナリティ心理学会発行の雑誌。
http://www.jspp.gr.jp/doc/pub_jjp.html

(5) 『心理学研究』は日本心理学会発行の雑誌。
http://www.psych.or.jp/publication/journal.html

(6) 『教育心理学研究』は日本教育心理学会発行の雑誌。
http://www.edupsych.jp/henshuu/

(7) 『社会心理学研究』は日本社会心理学会発行の雑誌。
http://www.socialpsychology.jp/journal/contents.html

(8) 論文が個別の査読者に回されることなく、担当編集委員によって掲載不可の判断が下されること。質が低い論文や、雑誌の趣旨に沿っていない場合に行われることが多い。

(9) バナージ(M. R. Banaji: 1956- ):ハーバード大学教授、ラドクリフ高等研究所教授。IAT(Implicit Association Test;潜在的連合テスト)の開発者。主著に『心の中のブラインド・スポット』など。2015年の日本心理学会大会にて招待講演を行った。

(10) バウマイスター(R. Baumeister:1953- ):フロリダ州立大学教授。意志の力や自我消耗に関する研究を行う心理学者。主著に『WILL POWER』など。

(11) フロイト(S. Freud:1856-1939):精神分析学者、精神科医。精神分析の創始者で、心を意識、前意識、無意識に分けて理論を展開した。

(12) オルポート(G. W. Allport:1897-1967):初期のパーソナリティ心理学を築いた研究者の1人。パーソナリティの特性論に関する研究で有名。

(13) 渡辺徹(1883-1957):日本のパーソナリティ心理学の開拓者。


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