現象としての社交不安(2)

これって正常?異常?――現象の機能を考える

社交不安を「症状」ではなく「現象」としてとらえると、何が見えてくるのか。臨床心理学のアプローチから大阪大学の佐々木淳准教授が、「現象としての社交不安」について解説する連載の第2回。今回は正常と異常の基準、そして現象の機能について詳しく取り上げます。(編集部)

連載第1回はこちら

Author_SasakiJun佐々木淳(ささき・じゅん):大阪大学大学院人間科学研究科准教授。主要著作・論文にUnderstanding egorrhea from cultural-clinical psychology(Frontiers in Psychology, 4, 894, 2013,共著)『臨床心理学(New Liberal Arts Selection)』(有斐閣,2015年,共著)。→webサイト

社交不安に限ったことではないですが、授業や講演などで「精神病理」についてお話しするとき、時折気になる感想をいただくことがあります。感想が気になるというより、何だか気にされているようなその方の様子を見ると、何だかこちらも心配になるというのが正確なところかもしれません。

それは、「私は……なんですが、これって病気ですか?」という深刻な問いです。異口同音どころか同口同音にさえ聞こえる、共通した語りが繰り広げられます。第1回でお話したように、私は「症状」に奥深い何かを感じつつ臨床と研究を続ける半面、その響きが人を脅かし過ぎるのではないかという思いを抱き続けてきました。たしかに、「○○の症状があります」「あなたは△△障害です」と伝えることに意味がないわけではありません。不安は搔き立てられますが、それをもつ人に注意喚起することができるからです。しかし、それを踏まえたうえで、「症状」や「障害」ではなく、「現象」としてとらえることでより広い柔軟なとらえ方ができるのではないかと日々感じています。

この現象はあなたに何を与えているのか――現象の機能という視点

現象の正常と異常を考える際に、いくつか押さえておきたい視点があります。まず考えておきたいのは、「この現象はこの人に何を与えているのか」という視点です。ここでは「人前で緊張して汗がたくさん出てくる」とか「人前で変なことをしてしまってバカにされるのではないか」などの思いが出てくる、という現象を取り上げましょう。

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第1回の話でいうと、前者は社交不安の身体的現象であり、後者は心理的現象、特に否定的評価への恐れ(fear of negative evaluation: FNE(1))と呼ばれる認知的現象です。つまり症状として数えられます。人前で緊張して汗をたくさんかくとしても、それがこの人に何を与えているのかを考えた際、この身体的現象が強い苦痛を与えているということでしたら、その人は困っていると言えるでしょう。

それに対して、たしかに汗をたくさんかくけれども、そんなことはいつものことだから別に気にしない、でも身体的「症状」として紹介されたから病気なのかと思って聞いてみた、という場合もあります。このように、たしかに「現象」が現れていることには変わりがありませんが、それがこの人に与えているものは異なることがよくわかります。後者の例でいうと、このような認知が現れてきてやはり耐え難い苦痛を感じていたり、回避行動が生じていたりすると、この人の生活の質や人生の質は、その現象がない場合と比べて、しんどいものとなったり追い詰められているような感じがつきまとうはずです。

ここで援用されているのは機能分析(2)という考え方です。私は認知行動療法とそれに伴う認知行動病理学を専門にしていますが、これは認知行動療法の一派である行動分析の考え方の1つです。行動分析の始祖のバラス・スキナーは、第1回でお話したオペラント条件づけを発見し、それを臨床に応用し、後の応用行動分析の発展の礎を作りました。この心理療法のアセスメントの考え方として大切なのが機能分析です。

この考え方では、行動(B: Behavior)には、「行動を生じさせる刺激」(A: Antecedent)、と「行動の結果」(C: Consequence)が結びついていると考えています(図)。このABCの3つの要素の結びつきのことを随伴性と呼びます。厳密にいうと「行動」ではない現象もあるでしょうが、ここでは簡単のために、何かによって現象が生起し、その結果としてもたらされるもの、このもたらされるものを「機能」と考えます。

behavior_analysis図 機能分析から現象と機能をとらえる


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