978-4-908736-25-4_cover

子どもの話を聴く

司法面接の科学と技法

デブラ・A. プール著/司法面接研究会訳

発行日: 2022年6月10日

体裁: A5判並製280頁

ISBN: 978-4-908736-25-4

定価: 2800円+税

ネット書店で予約・購入する

電子書籍あり(予定)

内容紹介

科学的証拠に基づく実践

司法場面における子どもの供述から,どのように信頼性の高い情報を得るのか。会話と認知能力の発達に関する科学的知見を踏まえ,習得すべき司法面接のスキル(技法)を丁寧に解説し,よりよい実践を行うための指針を提示する。

目次

第1章 子どもの面接の科学

第2章 司法的な見方

第3章 会話の習慣

第4章 定型的な内容――面接の初期の段階

第5章 定型的な内容――本題の段階

第6章 事案に応じた判断と調査

第7章 プロトコルと面接のトレーニング

著者

デブラ・A. プール(Debra A. Poole)

D. A. プール(Debra A. Poole)博士は,セントラル・ミシガン大学の心理学の教授である。アイオワ大学で発達心理学の学位を取得したのち,子どもの目撃証言や面接法の研究を行ってきた。アメリカ国立精神衛生研究所やアメリカ国立科学財団の研究助成を受け,質問を繰り返すことの効果,子どもは異なる形式の質問にどのように応答するのか,親からの誤情報が子どもの出来事の語りに及ぼす影響,知識の情報源(ソース)について報告する子どもの能力,面接で小道具を用いることのリスクと利点,などを探究してきた。プール博士は面接プロトコルの作成のためにミシガン州,メイン州の施策者らと協働し,また,学術誌Law and Human BehaviorPsychology, Public Policy and Lawの編集委員でもある。

訳者

司法面接研究会(しほうめんせつけんきゅうかい)

仲真紀子(なか・まきこ) 第1章 立命館大学OIC総合研究機構教授,北海道大学名誉教授,理化学研究所理事

安田裕子(やすだ・ゆうこ) 第2章 立命館大学総合心理学部教授

羽渕由子(はぶち・よしこ) 第3章 周南公立大学福祉情報学部教授

田中晶子(たなか・あきこ) 第4章前半 四天王寺大学人文社会学部准教授

田中周子(たなか・しゅうこ) 第4章後半 立正大学心理臨床センター相談員

佐々木真吾(ささき・しんご) 第5章 名古屋女子大学文学部講師

田鍋佳子(たなべ・よしこ) 第6章前半 北海道科学大学非常勤講師

赤嶺亜紀(あかみね・あき) 第6章後半 名古屋学芸大学ヒューマンケア学部教授

山本渉太(やまもと・しょうた) 第7章前半 北海道警察本部刑事部科学捜査研究所研究員

上宮愛(うえみや・あい) 第7章後半 金沢大学人間社会研究域講師

はじめに

私が大好きな発達心理学研究の1つに,子どもが他者に何かを説明する能力を調べたものがあります。典型的な研究では,子どもは4つの図形の線画を見て,それを聴き手が正確に描くことができるように説明します。図形は大きさや色,互いの位置関係が異なっていて,課題を成功させるためには,子どもは多くのことを聴き手に説明しなければなりません。しかし,それは普通なかなかうまくいきません。ある研究では,3年生が言及した線画の特徴は平均6つであり,それは,聴き手が実際の図形を知る手がかりとしてはまったく不十分でした。目隠しをした聴き手に,ゲームの説明をしている子どものトランスクリプト(発話の書き起こし資料)を読むと楽しくなります。ある2年生はこのように言いました「こっち側は赤だから,それを置くの,うん,それ進めて。こっち側は青でしょ,だから,あなたはこれを進めて。みんな手にもって,うん,どのブタさんがいいか,うん,選んで。わかったよね!」(Flavell et al., 1975, p. 98)。

私たちだって,自分の不慣れで(時には赤面してしまうような)道順の教え方や電子メールの文面を思えば,子どもを笑うことはできません。実際のところ,曖昧なコミュニケーションは子どもの専売特許ではありません。そしてこれこそが,子どもについても大人についても,私を何十年も魅了してきた問いなのです。それは,会話が伝えることのできるすべての事柄のうち,本当に伝えたいことに関する最良の伝え方とは何か,というものです。

この問いが私の心を捉えたのは,1980年代,多くの子どもが一貫性のない,奇妙な告発をした幼稚園での虐待事件〔訳注:たとえば,マクマーチン幼稚園で園児が教師から性的虐待を受けたと申し立てた事件。多くの子どもが非現実的な証言を行った; バトラー他,2004〕を,世の研究者が目にしたときでした。当時の私は,学んできた基礎研究は退屈に感じられ,赤ん坊であったわが子の成長を見守るのに忙しい,方向性が定まらない研究者でした。しかし,事件の捜査官が子どもの証人に何を尋ね,子どもがどう答えているのかを知ったとき,私は自分のもつユニークなスキルの目標を見出したのです。刑事捜査の過程で子どもたちがなぜあのようなことを言ったのか,その理由はわかりませんでしたが,いくつかの仮説を検討する方法はわかりました。

この検討には,2つのアプローチをとりました。発達心理学者の家庭は即席の実験室ですから,何年もの間,私はしゃがみこんで息子や娘に質問を投げかけ,その結果に耳をすませました(のちに息子や娘は研究助手を訓練し,やがては第二世代の子ども予備実験が可能になりました)。もう1つの方略は,多くの子どもを実験室に招き入れることに関心をもつ有能な研究者と共同研究をすることでした。こういった子どもの大群は常に,私たちの仮説が誤りであることを示してくれました。最近まで,私は自分の研究結果を予測する,というようなことはせず,むしろ,他の研究者がありえそうもない仮説を立てては試す,その原動力に感嘆してきました。子どもはこうするだろうと私が考えることと,彼らが実際にすることとのギャップが,本書を書く動機となりました。本書は,科学的証拠に基づく実践が,司法場面での大人と子どもの会話にある曖昧さをいかに低減できるか,それを共有する私なりの方法だといえます。

会話の科学は裾野が広く,本書で扱うトピックの領域も広いものとなっています。第1章では,大人は通常,子どもとどのように会話をするか,そういった会話スタイルはなぜ司法的な目標を妨げるのか,そして,解決を見出すために研究者が行う研究のタイプについて説明しました。第2章では,司法的な見方に関する全般的な特徴を紹介し,司法と臨床心理の役割の違いについて説明しました。また,事前情報をもたずに面接を行うことと,事前情報をもって面接を行うことの利点と制約について論じました。第3章から第6章では,司法的な見方を3つの「C」というスキルにまとめました。すなわち,会話(Conversation)の習慣(第3章),定型的な(Conventional)内容(第4章と第5章),そして,事案(Case)に応じた判断と説明(第6章)です。会話の習慣は,たとえば,子どもをリラックスさせるような非言語的な行動や,子どもが理解できる質問文をつくる一般的なスキルです。定型的な内容は,プロトコルにおける教示と面接の様相を指しています。事案に応じた判断と説明は,面接を事案に合うものにするために面接者が行う変更です。スキルをこのように3つのグループに分けたことで,一般的なスキル,すなわち習得が難しく,文脈に依存するスキルを学ぶ前のスキルを明確にできたと思います。最後に,第7章では面接プロトコルと効果的な研修プログラムの特徴について論じます。

これらの章は,忙しい実務家―本書を置くや否や,いま読んだばかりの内容を実践するとか,他者の実践を分析したりする人々―を意識して書かれています。子どもの証人を頼りとする司法面接者,臨床家,弁護士,その他多くの専門家の役に立つよう,本書は実践指向となっています。実践のための研究に基づく推奨事項は,会話例とともに示し,各章のまとめでポイントを押さえ,クイックガイド(中心的な概念とスキルを統合するセクションです)で繰り返し振り返ります。各章には実践のための原則というセクションも設け,そこでは,子どもへの面接に関する質問と私の回答を示しました。全体を通して,本書の目標は科学的証拠に基づく実践のあり方を示すことであり,どのような場面でもこのアプローチがベストだ,ということを示すものではありません。

本書では,実践に焦点化したため,いくつかの難しい決定を余儀なくされました。読者のすべてが面接者となるわけではありませんから,私は,研修資料でよく見る方法に沿わない選択をしました(第7章を参照のこと)。それは,章の見出しを行動文ではなく名詞形にしたことです(「トピックを導入する」ではなく「トピックの導入」など)。また,先行研究は例示するに留め,本来ならば言及すべき多くの古典的,また近年の研究を割愛しました。この割愛についてお詫びするとともに,読者には,より深く背景を学ぶために,引用されている書籍や章を参照されることをお薦めします。また,読者が他の文献を探す際に助けとなると思われるときには専門用語を用いましたが,不必要に小難しい学術用語を用いることは避けました。

本書に書かれていない事柄について述べておきます。専門職にある人たちが児童保護の職員,児童権利擁護機関〔訳注:CAC,ワンストップセンターなど〕の面接者,放火捜査官,検察官,弁護士,裁判官,精神保健に関わる職員,医師,学校において通告義務のある者としての役割を全うするうえで必要な膨大な知識は,明らかに,本書には含まれていません。また,子どもと話すときの一般的な原則はさまざまな場面に適用できますが,会話のスキルは,これらの現場で効果的な実践を行うのに必要な訓練の1つの要素でしかありません。

また,科学的証拠に基づくガイドラインを支えるうえで十分な研究が行われていない事柄も,本書では記述していません。たとえば,面接者は児童と青年とで異なる扱いをすべきですが,それがもたらす効果は,組織的な研究というよりも,未だ一般常識によるところが多いのです。同様に,広く使われている技法の多くは未だ適切に研究されていないため,本書では議論していません。こういったギャップが今後埋められることを願います。そうすれば,面接者にはより広い範囲の技法が選択肢として与えられるでしょうし,それは個々の事例に応じて実践の仕方を調整する,よりよい基盤となるでしょう。

ガイドラインは日々進化していますが,子どもの証人と会話をする際の主たる目標は変わりません。それは彼らの生活にある出来事を,可能な限り,最初から最後まで,正確に,曖昧でなく話すように支援する,ということです。この目標を阻む障壁や,障壁を乗り越えるための技術が,司法文脈における会話の科学をつくり上げています。

関連記事

関連記事をサイナビ!に掲載する予定です。