意外といける! 学習心理学(1)

学習心理学ってそんなに面白いですか?

ここまでをまとめると、学習でないものとは「経験に依存せずに生じる」「短期間で影響が消える」「身体の変化を伴わない」ということになります。こうなると、われわれの毎日は学習であふれているように見えるのではないでしょうか。その通りです。学習心理学の研究対象は、何か特殊なものではありません。毎日の生活の中で当たり前に生じている行動の変化と、そのメカニズムが学習心理学の研究対象です。どういう経験がどのように行動を変えるのか、行動の変化があったときにその原因は何か、よりよい行動の変化をもたらすにはどういった経験が必要なのか、といった問いに対する答えを明らかにしていくのが学習心理学です。

あれ、「こころ」は?

心理学に関心をもつ人の多くは、「こころ」に興味をもっていると思います。しかし、学習とは何かの説明の中には、「行動」は出てきましたが「こころ」は出てきませんでした。期待外れだと思う人もいるかもしれません。学習心理学は、「こころ」を扱わないのでしょうか。

「こころとは何か」について、明確な答えを与えるのはとても難しいことですが、1つ明らかなことがあります。それは、「他人のこころは目で見ることも触ることもできない」ということです。僕たちは、自分のこころについてはよく知っているつもりでいます。これもじつは相当にあやしいのですが、少なくとも自分が何を感じているのかについては主観的に振り返ることができます。しかし、他人のこころはどうでしょう。友人のこと、親や兄弟のことを、あなたはどれくらい知っているでしょう。よくわからないことが多いのではないでしょうか。いや、自分は親友のことをよく理解している、親友も自分のことを理解してくれていると思っている人もいるかもしれません。では、あなたはどうやって親友の「こころ」を理解しているのでしょうか。

僕たちが、他人の「こころ」に思いを馳せるとき、「こころ」を推測するときに、どうしても必要な手がかりがあります。それこそが「行動」です。毎日顔を合わせる友人が、「どうしたの、なにかあった?」とあなたに問いかけてきたとしましょう。友人は、あなたの「こころ」に何かの変化があったと推測したのでしょう。どうやって推測したのでしょうか。おそらく、あなたの行動がいつもと違っていたからです。それは微妙な表情の変化かもしれませんし、歩き方の変化かもしれません。あなたが自分で気づいていようがいまいが、あなたの行動の変化に友人が気づき、「あなたのこころに何か変化があった」と推測したわけです。行動とは身体の変化ですから、表情の変化も、歩き方の変化も、心拍数の変化も神経細胞の活動も、広い意味では行動です。このように「目には見えないこころを、行動を通じて推測する」という方法は現代心理学の一般的なやり方で、学習心理学も例外ではありません。学習心理学だけが、なにかとっつきにくい方法をとっているというわけではないのです。

学習心理学では特に、こころを推測するために重要な手がかりであるこれらの行動が、経験によって長い期間にわたって変わっていくメカニズムを研究対象としています。経験によって変化していくものであれば、それは学習心理学の対象になります。伝統的に、学習心理学では、目に見えないこころについて直接説明するよりも、直接観察や操作ができる環境と行動の関係に注目することが多いですが、これはこころの働きなるものを知るために最も重要なのが行動だからです。

学習研究の源流

このように、学習というものはわれわれの人生に深く関わってくるものでもあり、昔から多くの研究が行動の変化に注目することで進められてきました。古くは、プラトン(1)の著した『パイドン』に、「好きな人がよく竪琴を弾いているのを聞いているうちに、竪琴の音を聞くだけで好きな人のことが思い浮かぶ」という事例が出てきます。また、17,18世紀には、イギリスの哲学者であるジョン・ロック(2)やデヴィッド・ヒューム(3)といった人々は、人間の知識の源は経験である(経験論)という考えに基づいて「生まれたときには白紙であるこころに、経験によって観念が刻み込まれ、これが結びついて(連合して)複雑な観念が作られる」という連合論的な立場を作り出しました。人間は生まれたときには白紙であるという考えは多くの研究によって否定されましたが、この観念連合論というアイデアは、学習のメカニズム、こころの働きを考えるうえで重要な説明手法となりました。

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