意外といける! 学習心理学(1)

学習心理学ってそんなに面白いですか?

経験論哲学は、学習心理学の理論的背景として大きな役割を果たしましたが、その一方で実験科学としての学習心理学の決定的な影響を与えた実験研究があります。19世紀終わり頃から20世紀初頭に活躍したロシアの生理学者、イワン・ペトロヴィッチ・パヴロフ(4)による古典的条件づけの発見と、ほぼ同時期のアメリカの心理学者、エドワード・ソーンダイク(5)による道具的条件づけの発見です。

「パヴロフのイヌ」や「条件反射」という言葉を聞いたことがあると思います。パヴロフはもともと、消化腺研究でノーベル医学生理学賞を受賞した生理学者ですが、唾液腺研究を行うなかでいわゆる古典的条件づけという現象を発見し、いまではこの業績で有名になりました。パヴロフ以降、古典的条件づけは「外界にある事象間の関係性についての学習」と見なされるようになり、唾液分泌のような反射活動にとどまらない研究が行われています。

一方のソーンダイクは、問題箱と呼ばれる実験装置を使い、ネコやイヌが試行錯誤によって問題を解決する様子を研究して、後に道具的条件づけと呼ばれる手続きと現象を確立しました。この研究は、バラス・フレデリック・スキナー(6)に大きな影響を与え、行動分析学と呼ばれる一大体系へとつながっていきます。道具的条件づけは、現在では「生体の行動とその結果の関係性についての学習」と考えられています。

パヴロフとソーンダイクの研究は、現代の視点で考えてみるときわめてシンプルな手続きで行われています。しかしその影響はきわめて大きく、シンプルであるがゆえにとても適用範囲の大きなものでした。人間や動物の行動の変化を研究するために、いわば原子や分子のような学習の最小単位が手に入ったようなものです。この2つを組み合わせれば、人間や動物の複雑な学習、複雑な行動の変化を統一的に説明することができるのではないか? そう考えた研究者たちは、これらの条件づけ手法を使って多くの研究を行いました。その詳細は次回以降の記事でご紹介したいと思います。

まとめ――学習心理学の魅力

学習心理学が扱う学習という現象は、われわれの毎日に深く関わっています。もしあなたが心理学に興味をもっているならば、学習心理学の守備範囲から逃れるのは難しいでしょう。あなたが知りたいことに、学習心理学は何かしらのヒントを与えてくれると思います。学習心理学の大きな魅力は、その適用範囲の広さなのです。

学習心理学の適用範囲を広げているのは、扱う現象の広範さだけではありません。学習のメカニズムを説明するために使われる連合理論や古典的条件づけ、道具的条件づけといった手続きは、内容自体はとてもシンプルなものです。シンプルだからこそ、いろいろなところに適用することができます。目に見える行動の変化の説明にも使えますし、神経系の振る舞いを説明するために使われることもあります。その威力は、これからくわしく紹介していきます。

そして最後に、僕が感じる学習心理学最大の魅力は、「未来はこれから変えられる」という妙にポジティブなところです。学習心理学によると、われわれは経験によって行動をダイナミックに変えていく存在です。あなたの明日を変えることは難しいかもしれませんが、適切な経験をセッティングすれば、明後日を変えることはできるかもしれません。学習心理学は、あなたの明後日を変えるかもしれない「希望の学問」なのです。

面白い……でしょう?

(→第2回に続く

 文献・注

(1) プラトン(Plato:紀元前427-紀元前347)。古代ギリシアの哲学者。

(2) ロック(John Locke:1632-1704)。イギリスの哲学者。イギリス経験論の父とされる。

(3) ヒューム(David Hume:1711-1776)。スコットランドの哲学者。観念連合が形成される条件などを提唱した。

(4) パヴロフ(Ivan Petrovich Pavlov:1849-1936)。ロシアの生理学者。1904年にノーベル医学生理学賞受賞。

(5) ソーンダイク(Edward Lee Thorndike:1874-1949)。アメリカの心理学者、教育学者。

(6) スキナー(Burrhus Frederic Skinner:1904-1990)。アメリカの心理学者。行動分析学の創始者。


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