内部告発と組織不正の心理(2)
Posted by Chitose Press | On 2017年09月08日 | In サイナビ!, 連載組織風土をよくするには
――組織風土をよくするには,どうすればよいのでしょうか。
会議のルールをしっかりと決めて,会議に則って,そこできちんと議論して意思決定することです。あと,日本の場合は上に立つ者が根にもたないように努力することです。ですが,これはなかなか難しいことです。
私は多くの組織を見て,組織風土の社会心理学的測定もしてきました。一般論としてあまりよくないところは狭い地方に根を張っている金融機関です。そういうところでは,縁故採用の比率も大変高く,最大顧客が,新入社員の父親だったりします。そして,住んでいる近くで働いています。生活と仕事と縁故の全部が一緒くたになります。それは,ビジネスモデルが属人に依存する仕組みです。改善の見通しがなかなか立ちませんので,そういうところは厳しいです。
――属人思考にも構造的なメリットや理由があるのですね。
属人思考の方が意思決定が速いですから。決定内容が正しくないかもしれないけれど速い。企業の場合,意思決定が正しいか正しくなかったかはすぐには結論が出ないことが多いですが,速いか遅いかはすぐにわかります。
組織的違反と個人的違反
――一方で,手続きを重視しすぎる組織もありますが,そういうところでは不正は起きにくいのでしょうか。
そういう冷たい感じの組織もありますね。そういうところでは,組織的違反ではなく個人的違反が増えます。例えば夜まで一所懸命に仕事をして,会社のタクシー代で帰りたいのに,「この時間ではダメです」と言われそうだとすると,お客さんが来たことにして,お客を送ったことにして届けを出すというような個人的違反をするわけです。
個人的違反では,利害が「個人」対「組織」ですが,組織的違反では,利害が「組織」対「社会」です。個人が自分の所属集団に怒りをもったときは個人的違反をします。そこが難しいところです。組織的違反と個人的違反は相関しません。相関はしないのですが,個人的違反をあまり抑えすぎるポリシーをとると,間接的には組織的違反が増える傾向があります。論文にも書いていませんし,証明もしにくいことなのですが,個人的違反を厳しく取り締まると,もっと大きい爆発的な組織的違反が起きる傾向があると思います。
たとえば,個人的違反に関するまずい案件が出てきて,懲戒にしようかという話があったときに,どうするか。私はときどき,「片目をつぶりなさい」という言葉を使います。両方の目で見ないで,見て見ないふりをしろ,と。
組織的違反と個人的違反を両方なくすことはできないのではないかと思います。大きい組織だと違反はゼロにはなりませんから,経営者の立場に立てば,どちらを我慢するのかという判断になるのだと思います。
そこは心理学者と倫理学者の違いかな。私も倫理学者の知り合いはいませんが,「人間は真っ白でなくてはいけない」と言われたら,組織が維持できないと思います。いくらか清濁を併せ飲まないといけません。ですから,組織としてどういう「濁」だったら飲むのかということを決めなければいけません。