内部告発と組織不正の心理(1)

組織による不正が,内部告発により明らかになる事件があとを絶ちません。なぜ組織不正が生まれるのでしょうか。内部告発とはどのようなものなのでしょうか。社会心理学,社会技術がご専門の岡本浩一教授に話を伺いました。

Author_okamotokoichi岡本浩一(おかもと・こういち):東洋英和女学院大学人間科学部教授,社会技術研究所所長。社会学博士。主著に『会議を制する心理学』(中公新書ラクレ,2006年),『組織健全化のための社会心理学――違反・事故・不祥事を防ぐ社会技術』(新曜社,共著,2006年),『属人思考の心理学――組織風土改善の社会技術』(新曜社,共著,2006年)など。

どのような人が内部告発をするのか

――内部告発とはどういうものでしょうか。

内部告発とは,組織の成員によって,違法行為や倫理に反する行為を,第三者に通報することです。組織に現在所属する成員だけでなく,過去に所属した人も含みます。通報先の第三者とは,組織内部の上司や,担当部署,組織トップの場合もありますし,外部の監督官庁や司法当局,マスメディアの場合もあります。「告発」というと,ややネガティブな印象を与えるので,内部申告という言葉も使われます。英語圏ではホイッスル・ブローイング(whistle-blowing)と言います。「警笛を鳴らす」ということですね。

内部申告は,ある程度仕事のできる人,能力の高い人,自分のことを仕事ができると思っている人がします。仕事ができない人はあまりしません。

――仕事のできない人には,内部申告はしにくいということでしょうか。

それは,内部申告全体の分母をどう考えるかによります。私はいくつかの会社で内部申告があったものはすべて読みます。その中で重要な申告については,筆跡をわからないようにして,トップの人に教えてあげることがあります。例えば,ある食品会社では内部申告の件数は多いのですが,ほとんどのものが愚にもつかない,でたらめなものや告げ口のようなものです。そういうものも内部申告の分母に入れると,話は違ってきて,必ずしも優秀な人がするとは限りません。しかし,会社にとって大きなインパクトのある内部申告については,優秀な人がすることが多いのです。もっとも,そういう申告は大きな会社でも1年に1つもありません。

内部申告をする人がどのような人かということを,ミセリという研究者が分析をしていて,拙著『内部告発のマネジメント』(1)の中で取り上げています。その分析でも,内部申告をする人の能力は高く,自己評価も高いことが明らかにされています。日本でも,2002年に東京電力が,福島原子力発電所でシュラウドという部品のキズを隠していた事件がありましたが,それが明るみに出たのはケイ・スガオカというアメリカ人技師の内部申告でした。東京電力がシュラウドにキズがあったのを放置していただけでなく,検査報告書を書き直させた事件です。ケイ・スガオカという人が当時の通商産業省に手紙を送り,それで発覚しました。拙著『リスク・マネジメントの心理学』の第11章(2)に詳しく書いてあります。

私はこれはと思った人にはなるべく会うことにしているのですが,ケイ・スガオカにも会いました。他にも,1970年代にトナミ運輸の価格カルテルを内部申告した串岡さん(3)ともお会いして,いまでも手紙のやりとりがあります。2人とも,自分の能力を高く見ていました。能力の低い人は,問題もあまり感じないのではないでしょうか。


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