社会は心の健康にどう取り組むべきか?(4)

『心理療法がひらく未来』監訳者あとがきより

8・3 心理士の国家資格

心理士の養成で大きな力をもつのが国家資格である。イギリスの心理士は、大学で基礎心理学をしっかり学んだ後、大学院で各領域ごとの専門的な訓練を受けて、専門資格(臨床心理士、教育心理士、司法心理士など7種)をとる。どれかの専門資格をとれば、自動的に公認心理士(チャータード・サイコロジスト)という国家資格が得られる。

アメリカにおいても、心理士(サイコロジスト)の免許は、各州ごとに認定される国家資格である。この資格をとるためには、大学で基礎心理学を学び、博士課程で科学的な博士論文を書いて修了する必要がある(これを科学者-実践家モデルという)。その後、臨床現場で実習を積み、合格率50%の厳しい筆記試験に合格しなければならない。

国家資格は、いかがわしい療法の横行から国民を守るという質保証の点からも意義が高い。また、国家資格があることは、心理士の社会的ステータスを高める。アメリカの心理士の資格は、その社会的ステータスや競争率から見て、弁護士資格に匹敵するという。

8・4 日本の国家資格「公認心理師」

日本の状況はどうだろうか。現在の臨床心理士の養成において、認知行動療法や科学者-実践家モデルを中心とする大学院はまだ少ないのが現状である。国家資格化も長い間実現しなかった。

画期的なことに、2015年にようやく公認心理師法が国会を通り、2018年から国家資格の公認心理師が生まれることになった。厚生労働省と文部科学省による公認心理師カリキュラム等検討会の公表資料(2017年5月現在)によると、カリキュラムは大学4年と大学院修士課程2年の計6年を基本としている。大学では基礎的な心理学をしっかり学ぶ。大学院では、450時間の実習が義務づけられ、医療機関での実習が必須となる。

これまでの民間資格や学会認定資格とは違い、国家資格では、活動の効果についてのエビデンス(科学的根拠)や、養成の透明性が求められるのは当然である。税金を使って効果のない活動をおこなったり、質の低い資格者を出したりすることは許されない。その意味でも、公認心理師が認知行動療法やオープンな養成システムにもとづくことは確実であろう。大学院の必修科目のなかに、「行動論・認知論に基づく心理療法」として認知行動療法が入ったことは、その表れである。

国家資格の成立により、日本もようやく世界のパラダイムシフトに追いつきつつある。とはいえ、まだ課題は多い。欧米の資格が博士課程レベルなのに対して、公認心理師は修士課程レベルである。このために欧米では基本となっている「科学者-実践家モデル」の理念が中途半端なままである。欧米の心理士資格は、長い歴史を経て形成されてきたものであるが、日本の公認心理師制度はまだ始まったばかりである。今後、より高度に科学的で実践的な資格制度をつくっていかなければならない。


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