ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(4)

悲観的にとらえることで成功する防衛的悲観主義者

それでは,そのことを調べた心理学の実験(3)を紹介します。

この実験では,あらかじめ質問紙によって抽出された防衛的悲観主義者と楽観主義者に参加してもらいました。参加者は,“コーピング・イマジナリー”“マスタリー・イマジナリー”そして“リラクゼーション”の3つの条件のどれかに割り当てられ,それぞれ異なるイメージ・トレーニングを行った後に,ダーツの成績を競い合ってもらいました。

“コーピング・イマジナリー”条件とは,“コーピング・イマジナリーのテープ”を聞かせることによって,パフォーマンスのすべての場面を想定させ,さらにどんなミスをしそうか,もしそのミスをしたら,どうやってそれをリカバーするのかまで思い描かせる条件です。普段,防衛的悲観主義の人が使っている方略です。

“マスタリー・イマジナリー”条件とは,“マスタリー・イマジナリーのテープ”を聞かせることによって,完璧なパフォーマンスを鮮明に想像させる条件です。スポーツ選手が本番前に頭の中で完璧な動きをイメージ・トレーニングすると,それに対応する運動機能が強化されて,より自然に正確な動きが出せ,より良いパフォーマンスにつながるといいますが,そのテクニックによく似ています。

最後に“リラクゼーション”条件とは,パフォーマンスについての思考からは離れ,筋肉をすみずみまで弛緩させ,くつろがせる条件です。ここでは,太陽の輝く南国のビーチで,温かい砂に身を沈めている場面を思い描かせるような“リラクゼーション・イメージのテープ”を聞いてもらいました。このテクニックもスポーツ選手のパフォーマンスを向上させるためによく使われるもので,そこでは,癒しの音楽を聴いたり,リラックスしている自分の姿を思い描いたりします。

それでは,結果です。図1をご覧ください。防衛的悲観主義者は“コーピング・イマジナリー”条件において,楽観主義者は“リラクゼーション”条件において,ダーツの成績が最も良かったです。そして,ダーツの成績自体には,両者で差が見られなかったことも明らかになっています(つまり,悲観主義者が楽観主義者にパフォーマンスで劣るということではないのです)。

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図1 防衛的悲観主義者と楽観主義者の各条件によるパフォーマンス得点(4)

不安の対処の仕方が異なる楽観主義者と防衛的悲観主義者

この実験結果からわかったことは,防衛的悲観主義の人は楽観的になるとできが悪くなり,悲観的なままでいるときはできが良いということです。ポジティブだとみながみな,うまくいくわけではないのです。

同様に,楽観主義の人に,これから起こる出来事を悪いほうに想像し,洗いざらいのディティールを思い描くやり方をさせると,途端にパフォーマンスが下がります。同様の結果は,日常場面のパフォーマンス(学校でのテストの成績)を指標とした研究(5)においても,見られています。

高いパフォーマンスを収めるためには,積極的になることが大切です。しかし,防衛的悲観主義の人のように,つねに物事を悲観的にとらえる人に“ポジティブに考えようぜ”と言っても,ポジティブに考えられるはずがありませんし,不安なときに無理にポジティブに考えようとすると,裏目に出やすいのです(実験で,それが証明されました)。

ポジティブ思考がいつも万能だという考え方は,明らかに間違っています。人はそれぞれ違うので,ある人に効くものも,ある人には効かないかもしれません。

楽観主義者と悲観主義者とでは,目標に向かう際の心理状態が大きく違います。楽観主義者は不安を感じることが少なく,悲観主義者は不安をもちやすいのです。楽観主義者は,不安を寄せつけない方略を必要とし,悲観主義者は,不安を効果的にコントロールする方略が欲しいのです。

そこで,前者には,あまり考えたり悩んだりしないような方略がベストであるし,後者には,予想できる最悪の事態を想像し,それを避ける最大限の努力をする方略がぴったりということになります。高いパフォーマンスを収めるためには,自分に合った方略を選択することが重要になってくるのです。

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文献・注

(1) Seligman, M. E. P. (1990). Why is there so much depression today? The waxing of the individual and the waning of the commons. In R. E. Ingram (Ed.), Contemporary psychological approaches to depression: Theory, research, and treatment. New York: Plenum Press, pp. 1-9.

(2)  Norem, J. K., & Cantor, N. (1986). Anticipatory and post hoc cushioning strategies: Optimism and defensive pessimism in “risky” situations. Cognitive Therapy and Research, 10, 347-362.

(3) Spencer, S. M., & Norem, J. K. (1996). Reflection and distraction: Defensive pessimism, strategic optimism, and performance. Personality and Social Psychology Bulletin, 22, 354-365.

(4) (3)を参照。

(5) 外山美樹 (2005).「認知的方略の違いがテスト対処方略と学業成績の関係に及ぼす影響――防衛的悲観主義と方略的楽観主義」『教育心理学研究』53, 220-229.


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