ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(4)
悲観的にとらえることで成功する防衛的悲観主義者
Posted by Chitose Press | On 2017年07月05日 | In サイナビ!, 連載あなたは自分に自信があるでしょうか? それとも自信がないでしょうか? 勉強や仕事などのパフォーマンスが,自分のもつ「ものの見方」の影響をどのように受けるのか,外山美樹・筑波大学准教授がさまざまな研究知見を紹介します。最終回は,前回の楽観主義とは逆の悲観主義の中でも,不安を上手にコントロールしている人たちについて見ていきます。(編集部)
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外山美樹(とやま・みき):筑波大学人間系准教授。主著に『行動を起こし,持続する力――モチベーションの心理学』(新曜社,2011年),「特性的楽観・悲観性が出来事の重要性を調整変数としてコーピング方略に及ぼす影響」(『心理学研究』85, 257-265,2014年),「中学生の学業成績の向上における社会的比較と学業コンピテンスの影響――遂行比較と学習比較」(『教育心理学研究』55, 72-81,2007年)など。→Webサイト
パフォーマンスが落ちるメカニズム
みなさんは,試験や試合の場面,あるいは,人前でスピーチをするとき,緊張や不安により実力が発揮できなかったという経験はあるでしょうか。多くの人たちが「ある」と答えることでしょう。どんなに有能な人や超一流の選手であっても,本番では緊張してうまくできないことがあります。
なぜ,緊張や不安を感じると,パフォーマンスが落ちてしまうのでしょうか。そのメカニズムには,いろいろな仮説が想定されていますが,ここではその中から「認知資源不足仮説」について説明します。
人間の脳の働きをコンピュータの情報処理になぞらえて考える認知心理学では,意識や注意は情報処理のために必要な資源と考えられ,認知資源とよばれています。
何かをしているときに使える認知資源は限られていますので,緊張やプレッシャーがかかる場面で,“失敗したらどうしよう”とか“うまくいかないに違いない”などと頭の中で考えてしまうと,有限な認知資源が集中すべき課題(試験や試合,スピーチ)とは無関連な情報に割かれてしまい,集中すべきことに資源がまわらず,パフォーマンスが低下してしまうのです。
このように緊張や不安は,本来集中すべき課題以外のことに認知資源が使われてしまうため,本番では,この緊張や不安にいかに対処するのかが重要になってきます。
ところで,前回,楽観主義について取り上げましたが,楽観主義者と悲観主義者では,この緊張や不安に効果的に対処する方法が異なります。今回は,悲観主義の中でも不安を上手にコントロールしている防衛的悲観主義者について紹介します。
悲観的に考えることで成功する――防衛的悲観主義者
前回,楽観主義が目標達成や高いパフォーマンスにつながりやすいことを,紹介しました。
ちまたでは,ポジティブ思考こそ唯一の美徳で,“ポジティブにいこう”という風潮が強まりつつあります。
一方,多くの研究(1)において,ネガティブ思考や悲観主義はネガティブな結果と関連していることが示されており,悲観主義者は無気力で希望を失いやすく,簡単にあきらめてしまうため,能力以下のパフォーマンスしかあげられないと指摘されています。
ところが近年,悲観主義者の中にも,物事を“悪い方に考える”ことで成功している適応的な悲観主義者(これを防衛的主義者といいます)の存在が明らかになっています(2)。