TEA(複線径路等至性アプローチ)の過去・現在・未来――文化と時間・プロセスをどのように探究するか?(3)

文化の問題,人生の問題に心理学がどう取り組むことができるのか。時間とプロセスを記述するにはどうすればよいのか。この10年ほどの間に普及してきた複線径路等至性アプローチ(TEA)を手がかりに,サトウタツヤ教授,渡邊芳之教授,尾見康博教授の三者が鼎談を行い,議論をしました。第3回はTEM図から見えてくるものを考えます。(編集部)

連載第1回はこちら
連載第2回はこちら

TEM図から何が見えてくるか?

渡邊:

話は戻るけれど,ケリーもそうだし内藤さんもやっていたんだけれど,パーソナル・コンストラクトを解明して,REPグリット(1)をつくって何かがわかってくると,対象者に見せるんだよね。そうすると,気づかなかったけど私はこんなふうに見てたんだ,と言って話が進んでいくんだよ。さっきの話は誰かがTEM図をつくって,研究の同僚が見ることで概念化されたわけで,研究者は径路を知るという目的があるけれど,径路を効果的に聞くという意味ではTEM図を描きながら話を聞くと効果的に聞けそうだよね。

Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に,『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社,2010年),『心理学方法論』(朝倉書店,2007年,編著), 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

サトウ:

それはまったくそうで,1人に3回会うことを前提にすべきだと言っている。1回目に聞きに行って図を描いて,それで2回目にそれを見せる。PAC分析もそうだけれど,図はわかりやすいんだよね。文章で書いたレポートを相手に渡しても読んでもらえないしね。「私はあなたの人生をこう聞かせてもらいました」ってことを,図で見せる。1回目はイントラビュー(Intra-view),2回目はインタビュー(Inter-view)で,3回目にトランスビュー(Trans-view)になるという感じ。最高にうまくいった時には,研究者が作った図を相手が欲しいって言うんだって。

Author_SatoTatsuyaサトウタツヤ(佐藤達哉):立命館大学総合心理学部教授。主要著作・論文に,Collected Papers on Trajectory Equifinality Approach『TEMではじめる質的研究』(誠信書房,2009年,編著),『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣,2011年,共著)など。→webサイト

渡邊:

あった,あった。俺が昔,REPテストをやっていた時も,できあがると欲しがるんだよ,対象者がみんな。REPテストがPAC分析に進化するのに一番大事だったのは,クラスター分析で絵が描けるようになったことなんだよね。絵が描けると,だいたい欲しいって言われるよ。みんな目を輝かせて絵を見る。みんな自分のことを知りたいわけだ。自己に対する知識が再構造化されるわけでしょ。TEM図も同じで,TEMが人生の流れをつくっちゃう。

サトウ:

「人生をつくっちゃう」は言い過ぎで,「人生のうちのある主題に対する径路が物語として可視化される」くらいかな。

渡邊:

ある1つの物語か。

サトウ:

「図を欲しい」って言ったのは看護師の人で,「これまでこういうふうに対応してきたんだから,今度何かあった時にはこれを見てやろう」,みたいな話なんだよ。

渡邊:

人生には大事なポイントとして同じことが複数回起きることがあるわけだよね。同じことが何度か経験される,経験されるたびに経験の意味が変わるわけじゃない。1回目と2回目は上に行ったけれど,3回目は下に行った,ということもありうる。

サトウ:

そこは面白いところだよね,繰り返しがsameなのかsimilarなのか。まさにそういうことが描けるわけだ。大学の学生相談室に行けない研究(2)っていうのもあって,相談室に行こうとするけど行けない,行こうとするけど行けない,とそのたびに「相談室に行ったらヘタレと思われるんじゃないか」と思ってしまう。そういう圧力が描けるんだよね。

渡邊:

そういう圧力がTEM図で見えるわけでしょ。そういう力が見えるって最初の売りだったわけだし。

サトウ:

最初は径路だけでやろうとしていたんだよね。そこに木戸彩恵が社会的な力という概念を持ち出してきた。複数ある径路のうち,どれかを選択する場合,心理学的にはすぐに好みのような内的な力で記述しようとしてしまう。しかし,そうではなく社会的な力を表したい,というのが彼女の眼目だった。個人的にはTEMの初期はそれで完成したと思ってる。つまり径路と力だけでいいんじゃないの,とも思っているんだけれど。。。

尾見:

その後,いろいろと概念が増えましたよね。社会的力も社会的方向づけ(social direction: SD)と社会的助勢(social guidance: SG)に分化したし。

Author_OmiYasuhiro尾見康博(おみ・やすひろ):山梨大学教育人間科学部教授。主要著作・論文に,Lives and relationships: Culture in transitions between social roles. (Advances in Cultural Psychology)(Information Age Publishing,2013年,共編),『好意・善意のディスコミュニケーション――文脈依存的ソーシャル・サポート論の展開』(アゴラブックス,2010年)など。→webサイト

サトウ:

それについて,木戸は憤ってる(笑)。それを受け取る人のタイミングや志向性によって社会的力は抑制にも促進にもなりうるから,ポジティブ・ネガティブの作用で力を切り分けてしまうのはどうかと思う,って。あと,これ以外にも,自己のモデルや対話だとかの概念がどんどん入ってきてTEMの描き方もどんどん変わってきた。


1 2 3