ものの見方はパフォーマンスをどのように変えるのか?(3)
楽観性
Posted by Chitose Press | On 2017年06月02日 | In サイナビ!, 連載あなたは自分に自信があるでしょうか? それとも自信がないでしょうか? 勉強や仕事などのパフォーマンスが,自分のもつ「ものの見方」の影響をどのように受けるのか,外山美樹・筑波大学准教授がさまざまな研究知見を紹介します。第3回は楽観的なものの見方がパフォーマンスにどう影響するのかを見ていきます。(編集部)
外山美樹(とやま・みき):筑波大学人間系准教授。主著に『行動を起こし,持続する力――モチベーションの心理学』(新曜社,2011年),「特性的楽観・悲観性が出来事の重要性を調整変数としてコーピング方略に及ぼす影響」(『心理学研究』85, 257-265,2014年),「中学生の学業成績の向上における社会的比較と学業コンピテンスの影響――遂行比較と学習比較」(『教育心理学研究』55, 72-81,2007年)など。→Webサイト
今回は,自分の将来に対する見方である“楽観性”がパフォーマンスに及ぼす影響について見ていくことにします。
楽観性とは
楽観性(“楽観主義”ともいいます)は,近年のポジティブ心理学(人間のポジティブな側面に注目して,人間のもつ強さを引き出し,それによって個人や社会を支えるような学問)の台頭に伴い,注目される研究テーマとなっています。楽観性の研究は,主として3つの独立した研究分野で行われています。
1つ目は,非現実的楽観主義(unrealistic optimism)の研究(1)です。
2つ目は,マイケル・シャイアーとチャールズ・カーバー(2)に始まる特性的楽観性(dispositional optimism)の研究です。
そして,3つ目は,マーティン・セリグマンが提案した楽観的な説明スタイル(attributional style)の研究(3)です。
これから,3つの楽観性(楽観主義)について,それぞれ説明していきます。
誰もが備えもつ非現実的楽観主義
将来,ネガティブな出来事は自分に起こりにくく,ポジティブな出来事は自分に起こりやすいと認知する傾向のことを,非現実的楽観主義(以後,“楽観主義”と略す)といいます。
この楽観主義の傾向は,程度の差はあれ誰もがもっているものです。たとえば,あなたは以下の項目に,どれだけあてはまると回答するでしょうか。
- 将来,自分はガンになる。
- 将来,自分は離婚する。
- 将来,自分は交通事故に遭う。
- 将来,自分は宝くじにあたる。
- 将来,自分は幸せな結婚生活をおくる。
この項目は,著者が行った研究(4)で使用したものなのですが,多くの人は,悪い出来事は自分にはあまり起こらないと考え,良い出来事は自分に起こると考えています。
つまり,人は,他の人はともかく自分はきっとうまくいく,幸福になれると思っているのです。こうした楽観主義的な傾向をわれわれの多くがもっているという事実は,基本的に人間がポジティブな存在であることを示すものです。
ところで,こうした楽観主義的な傾向には,文化差が存在することが指摘されています。欧米人(カナダ人)と東洋人(日本人)を比較した研究(5)では,カナダ人は日本人よりも楽観主義的な傾向が強いことが示されています。
これは,相互協調的自己観(人間相互の基本的なつながりを重視し,関係のある他者と調和することが大切であるという考え方)を備えもつといわれている日本人が脅威を感じる出来事(例えば“職場の同僚に嫌われる”,“家族や友人に迷惑をかける”など)においても同様でした。
欧米人は,悪い出来事と良い出来事の両方で強い楽観主義的な傾向を抱くのに対して,著者が行った研究では,日本人は悪い出来事においてより一貫した楽観主義的な傾向が見られることがわかりました。
日本人においては,何かとてつもなく良い出来事(例えば“大金を手に入れる”,“宝くじにあたる”)が将来待ち受けているという積極的で自己拡大的な楽観主義ではなく,日常が平和に暮らせる程度の良い出来事(例えば“幸せな結婚生活をおくる”)が自分に起こり,悪い出来事が自分に起こるはずはないといった控えめで自己防衛的な楽観主義がより顕著なのです。
これらの知見から,楽観主義的傾向のような自己高揚的なバイアスには文化差が見られ,われわれ日本人においては,こうしたバイアスが弱いことが指摘されています。