あなたは障害者をどう思いますか?――身近な問題としての偏見や差別(3)

社会に,障害者への偏見や差別はあると思いますか? あなたは障害者のことをどう思いますか? 三重大学の栗田季佳講師が身近な問題としての偏見や差別の問題を考えます。第3回は障害のある人が「障害者」として扱われることがどのような影響をもたらすのかを見ていきます。(編集部)

連載第1回はこちら
連載第2回はこちら

Author_KuritaTokika栗田季佳(くりた・ときか):三重大学教育学部講師。主要著作・論文に,『見えない偏見の科学――心に潜む障害者への偏見を可視化する』(京都大学出版会,2015年),『対立を乗り越える心と実践』(大学出版部協会,近刊),「『障がい者』表記が身体障害者に対する態度に及ぼす効果――接触経験との関連から」(『教育心理学研究』58(2), 129-139,2010年,共著) 。→Webサイト

連載の第1回と第2回では,社会におかれた障害者の状況と,非人間化される心のプロセスについて述べた。

第3回の今回は,障害のある人が「障害者」として扱われることの影響を見ていきたい。

全盲の人が自身の障害について次のように話すのを聞いたことがある。「自分は生まれたときから目が見えなかった。だから,小さい頃はそういうものだと思っていたし,まわりもみんなそうだと思っていた」と。このように,障害のある人が,自分に障害があるとわかったのは後々だったと聞くことがよくある。このことは,「障害者」という存在がはじめからあるのでなく,つくられていくことを表している。

スポンサードリンク

自分にとって当たり前のことは,差異と接するまで,それが特殊であるということに気づかない(「日本のことを知りたければ,海外に行くのが一番だ」とはよく言われる)。それは,障害のある人もない人も同じである。しかし一方は,社会の中で不利で劣位におかれやすい。

目が見えないこと/耳が聞こえないこと/幻聴があること/文字が読めないことは,その人にとっての現実であり,普通で当たり前のことである。それが,なぜ「障害」となるのだろうか? 障害のある人が,「障害者」としての自己をどのように形成していくのだろうか? また,それはどのような影響があるのだろうか?

障害の意味

社会的な特徴――性別,国,所属――に基づく自己意識(アイデンティティ)は生まれながらにあるのではなく,他者に注目されたり,求められたり,応じたりする中で徐々に形成されていくものである。幼い頃は男女関係なく遊んでいても,しだいに性別に基づくグループができあがり,着る服装も身につけるものも,進路選択も男女で偏ったものに変わっていく。

「女性は○○」「男性は□□」のような性別に基づくステレオタイプは,それぞれの人の性別に基づく自己認識――ジェンダー・アイデンティティ――に影響を及ぼす。そして,当初は男女差を表していただけの記述が「あるべき」規範へと転じ,人の自由な選択や行動を制限する。

英語で障害は“disability”であり,ability(能力)に打ち消しの接頭語disがついている通り,障害には「できない」「鈍い」「能力が劣る」というイメージがある。そのようなイメージがもたれている「障害」をもつ人には能力ステレオタイプ(「障害者はできない」)が付与され,影響を及ぼす。

ワンとドヴィディオ(1)は,大学に通う障害学生を対象に,ある実験を行った。参加した障害学生は,最初に自分に関する質問に回答した。半数の学生は,障害の種類や発症時期,当事者団体への所属など,障害に関する質問を受けた。もう半数の学生は,所属学科やサークル活動など大学に関する質問を受けた。

人にはさまざまなアイデンティティがあるが,ある種のアイデンティティに意識を向けさせるために,ワンらは上記の質問を用意した。前者は障害者としてのアイデンティティを活性化させるため,後者は大学生としてのアイデンティティを活性させるためであった。

その後,学生たちは単語の穴埋め課題を行った。例えば次のような穴埋めである。

① “cap__”

② “__ead”

答えは複数ある。例えば①は,“capable”(できる)でも“caption”(注釈)でも正解である。②は,“lead”(導く)でも“head”(頭)でも正解である。ただし,“caption”に比べ“capable”の方が,“head”に比べ“lead”の方が自立的な意味合いが強い。

すると,最初に「障害」について回答した学生のうち,差別意識に敏感な者は,穴埋め課題の回答で自立に関連する単語を回答することが少なかった。つまり,周囲から差別されているかどうか気にしている学生は,自分が「障害者」であることを意識することによって,「自立」するイメージから遠のいてしまったのである。

障害者が大学進学や自立生活をすることは,障害のない者に比べると非常にハードルが高い(2)。障害者施策に保護的な色合いが強いことにも,家族を含む周囲が障害者の自立に積極的に賛成しないことにも,障害者に対する能力ステレオタイプが表れている。「障害があるからできないだろう,無理だろう」という周囲の意識によって,障害のある本人はますます「障害」化させられていき,そうした「障害者アイデンティティ」をもつようになっていくのだ。


1 2 3
執筆: