意味を創る――生きものらしさの認知心理学(4)

人工物の中の生きものらしさ・意味を創るということ

私たちは生きものらしさをどのように認識しているのか,そして世界を認識する際にどのように「意味を創る」のか。この問題に中京大学の高橋康介准教授が認知心理学の観点から迫ります。最終回は人工物(モノ)から生み出される生きものらしさを検討します。(編集部)

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Author_TakahashiKosuke高橋康介(たかはし・こうすけ):中京大学心理学部准教授。主要著作・論文に,Seeing objects as faces enhances object detectioni-Perception, 6(5),2015年,共著),Synchronous motion modulates animacy perceptionJournal of Vision, 15(8), 17,2015年,共著)。→Webサイト,→Twitter(@kohske

これまでの3回にわたる連載の中で,認知心理学という立場から「生きものらしさ」に注目して「意味を創る」という私たちの認知の特性を紹介してきました。今回は最終回ということで,少し視点を変えて工学の立場からの「生きものらしさ」に触れてみたいと思います。

心理学と工学というと,遠くて関わりのない分野のように思われるかもしれませんが,実は両者は切っても切り離せない関係にあります。例えば新しいモノをデザインするとき,私たちの認識や行動の仕組みを十分に理解しておくことはおおいに役に立ちます。またデザインされたモノが予想以上に使いやすかったり,予想外にも親しみを感じたりするということになれば,その原因を探ることで私たち自身の認知や行動の仕組みをより深く理解することができます。このように工学と心理学は,扱う問題やアプローチこそ違いますが,密接に関係しているのです(図1)。

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図1 工学と心理学の関係。極端に簡略化していますが,心理学は私たちの認識や行動の仕組みを理解するすることで工学に貢献し,工学はモノのデザインを通して人間の認識・行動の新しい側面を心理学に投げかけます。

人工物に生きものらしさを注入する

すでに紹介したように,私たちは生きものが大好きです。インタラクションの相手であるモノに生きものらしさを注入して擬人化(より広く擬生物化と呼ぶべきかもしれません)するという手法は,実際にどの程度の効果があるのかわかりませんが,いろいろな場面で導入されています。

例えば一昔前,あるオフィスソフト(ワープロソフトや表計算ソフトのことです)には,ユーザが困っているとどこからともなくイルカが出てきて手助けしてくれようとする機能がありました。なぜイルカなのかはさておき,無機的なオフィスソフトに少しでも親しみを感じてもらおうという開発者の意図を汲み取ることができます。残念ながら(?)最近のオフィスソフトからイルカはいなくなってしまいました。

動画1 多くのユーザに愛されたイルカのカイル君(1)

このようにモノを擬人化することで,人工物をうまく,心地よく使えるようにするという技術は,ヒューマン・エージェント・インタラクション(HAI)という分野で深く研究されています。

HAIはヒトの心や知性を扱う認知科学からロボットなどの人工物を設計・制作する工学まで,非常には幅広いトピックを扱っています。ここですべてを紹介することはできませんが,HAIのコンセプトをよりくわしく知りたい方は,少し古い本ですが『人とロボットの〈間〉をデザインする』(山田誠二監修・著,東京電機大学出版会)(2)を一読してみるとよいでしょう。現在第一線で活躍するHAI研究者たちの熱い想いが詰まった1冊です。また,年に一度「HAIシンポジウム」というカンファレンスが開催されています(3)。HAIシンポジウムではロボットやエージェントがデモ展示されているので,触れ合ったりコミュニケーションしたりと,実際にHAI研究の最前線を体験することができます。


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