10月 みあやまり――擬似相関(3)

『大学生ミライの因果関係の探究』より

「因果関係があるかないかを決めるのは,予想以上に難しかった」。心理学科のミライが統計にまつわる出来事に遭遇するキャンパスライフ・ストーリー。前回,ミライは社会心理学者の江熊先生の研究室を訪れ,「擬似相関」についての話を聞きました。(編集部)

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因果関係を確定することの難しさ

因果関係を考えることって,思っていた以上に難しい。

「先生,因果関係を決定することが,こんなに難しいことだとは思ってもいませんでした」

先生は軽くほほえみ,こう言った。

「人間は,因果関係を決めたいと思っている。因果関係が決まらないと落ち着かないし,原因がわからないことがあると不安を感じてしまう。そして,つい簡単にこれが原因だと決めてしまう」

たしかに,そういうものかもしれない。

「先生,じゃあ,あおいのアルバイト先の場合は」

「基本的なところからいうと,そもそもそういう関連が観察されているのか,という点からして疑問を感じるね」

それは,ずいぶん根本的なところだ。

「西永さんのアルバイト先の店長が主張していることは,もともとウェブページや本に書かれていることだ。でもそこには,体験談しか書かれていない」

この説を主張している経営者は,有名な成功した経営者だ。信奉者も多い。

「どこにもデータが示されていないので,書かれていることは,その経営者がこれまでに経験したことに基づいているのだろうね」

でも,もしもそのデータが正しいときには,どうなるのだろうか。

「先生,もしもそういうデータが得られた場合には,どうなるのでしょうか」

「百歩譲って,実際にそういうことがあったとしても,おそらく勉強ができないことが,バイトで一所懸命働いたり,店の売り上げを伸ばしたりする原因になるのではないだろうね」

直接の原因ではないということか……。

「では,そこにはどんなことあるのでしょうか」

「成績の悪い学生が一所懸命働く,のではなくて,一所懸命働いている学生の成績が悪い,のだと思うよ」

働いているから,成績が悪くなる……逆の関係?

「因果関係が逆だということですか」

「いや,必ずしもそうじゃなくてね」

それも違う。ややこしいなあ……。

「1日の時間というのは,限られている。大学にいる時間,勉強する時間,友人や恋人といる時間,眠る時間,バイトの時間。その中で,何かに時間をとられれば,他の時間は相対的に少なくなる」

そうか,時間の取り合い。スケジュール帳の項目が擬人化されて,椅子とりゲームをしている様子が思い浮かんだ。

「そういう要因もあるし,大学生活がつまらなくて,バイトに一所懸命になってしまう大学生もいる。これは,動機づけの問題と言えるかな」

これは,動機づけが第3の変数になるということか。さっきの例でいえば,気温や学年にあたるところ。

「その場合は,学生の動機づけが,勉強とバイトの両方に影響を与えていると考えるのですね」

私は擬似相関の例を思い浮かべながらそう言った。すると先生は言う。

「高校から大学に入ると,生活は一変する。すべてをうまくこなすことって,そんなに簡単なことじゃないと思うよ」

同じ学科の学生の顔が何名か思い浮かんだ。大学に来なくなってしまった学生もいるし,大学には来ているもののバイトに明け暮れて授業中は寝てばかりの学生もいる。

「ここでも,因果関係は完全には特定できないのですね」

「それは難しい。でも,勉強ができなければ仕事がうまくいく,というのは考えにくいね」


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